平成20年1月1日付中日新聞より抜粋
2008年1月1日 朝刊
【北京=鈴木孝昌】日中両国政府の合意を受けて2006年末から進められている「歴史共同研究」で、中国側が「対中侵略の計画書」と位置付け日本側と真偽論争を続けてきた「田中上奏文」について、中国側が「偽物」と認める見解を示していることが分かった。中国は同文書を対日批判の根拠としてきたが、公式な研究で見解が見直される可能性があり、歴史認識の違いを埋める一歩となりそうだ。
田中上奏文は、1927(昭和2)年、当時の田中義一首相が対中侵略や世界征服の計画を昭和天皇に密奏したとされる文書。
日本では「偽物」との見方が大勢だが、中国では歴史教科書にも記述され、北京の盧溝橋にある「抗日戦争記念館」でも展示されている。
共同研究の複数の中国側関係者は、本紙に対し「田中上奏文は信頼性が低く、中国の専門家の間でも本物ではないという考えが主流になりつつある」と指摘。07年11月に福岡で開かれた分科会でも中国側委員から同様の意見が出された。
委員の1人で、中国政府直属の研究機関、中国社会科学院の蒋立峰・日本研究所所長も、05年以来、非公式に同様の考えを示している。
08年6月にまとめる共同研究の報告書で「偽物と結論づけるのは時期尚早」(関係者)との意見があるものの、主流となりつつある考え方が報告書に新たに反映される可能性がある。
同時に、中国側は「日本に対中侵略の意図があったことは確実。満州事変後の事態は、ほぼ上奏文の通りに進展した」との立場を堅持。日中戦争を「侵略戦争」と認めるよう求めている。
【田中上奏文】1927年、日本政府が対中政策を検討した「東方会議」を受け、田中義一首相が天皇に上奏したとされる文書。中国語で2万6000字に及ぶ長文で「支那を征服せんと欲せば、まず満蒙(中国東北部と内モンゴル)を征服せざるべからず。世界を征服せんと欲すれば、まず支那を征服せざるべからず」とし、大陸における移民政策や鉄道建設、学校や病院運営などの具体的政策が記されている。