大口径レンズを使ってみて  Ai AF Nikkor 28mm F1.4他
 標準レンズは基本的に大口径レンズである。大口径はその名が示すように、口径が大きく
明るいレンズを指すが、焦点距離に応じて、明るさや口径は違ってくる。
例えば、300mmF2.8は、大口径レンズでおなじ焦点距離でもF4は、そのように言われない。
反面、300mmF4より小さい口径の50mmF1.4は大口径とされ、300mmF2.8と同じ明るさを持っ
ていても50mmでF2.8は大口径とは言われないものである。また、F値は焦点距離と口径の対
比で、あることから、ミラーボックス構造を持つ一眼レフは自ずとそのスペースを確保するため
にフランジバックが長くなり、その分、同じF値でもレンジファインダー用レンズに比べ口径が大
きくなる。ライカMシリーズのレンズが小振りなのも、そんな理由からだ。
 300mmF2.8などの大口径望遠は、ここの頁では含めないで進めたいが、ニコンユーザーの
小生は、MF時代、85mmF1.4,、50mmF1.4、35mmF1.4というF1.4トリオを使用していた。
50mmはともかく35mmと85mmはそれなりに高価なレンズである。ところが、どちらも描写は芳
しくない。35mmは収差が大きく、35mmとは思えない歪曲があり、85mmの方は、ボケが柔らか
もののピントがあっているところも妙に柔らかいレンズであった。
 時代は、AFに入り、ニコンも新しいレンズが登場する。50mmは、MFをAF化したものだが、
85mmは、新設計である。開放から、シャープな描写を見せ、ボケ具合も素晴らしい。ツアイス
プラナー85mmF1.4と比較しても客観的性能は、上を行っている。これでモーター内蔵になれ
ば、操作性も向上するのだが、なかなかニコンは、単焦点レンズのSWM化は消極的だ。
 AF85mmは、好評なデビューを果たしたが、35mmは、新たに出されることは無く、28mmF1.4が登場した。精研硝加工による非球面レンズを用い、その価格は税込み
\249.900。近年、国産レンズも高い価格が設定されて価格概念が変わってきているが、当時の35mm用レンズでこの価格は、驚異的であった。実際、性能も脅威的描写
力を持っていた。非球面レンズは、開放値での撮影に優れたものであるから、そうなるのも当然のことであるが、それにしても値段だけのことはある。しかして、何ゆえ大口
径レンズを使うことになったかというと、小生の作風が変わったことに起因する。広告写真が主体だったころは、照明器具など豊富な機材を使ってライトを組み撮影をする
ことから、差し当たり大口径は必要としなかった。むしろ、大型ストロボを使うことから、最小絞りが少ない大口径レンズの方が使いにくい面があったものだ。ところが、出版
系の仕事をするようになり、セットされたものではなく、臨場感を引き出すことが面白くなった。蛍光灯などの人口光を含めた自然光(アベイラルライト)での撮影には、明る
いレンズの方が有利であることは言うまでも無い。ちなみに広告撮影でも極力、セットは自然な感じにしようとしてきたが、スタンリーキューブリックの作品が、やはり、そこ
に拘っていたそうで、小生の手法を自分で褒めた次第である。
 話をレンズに戻そう。この頃、コダックよりT-MAXというフィルムが出され、白黒での撮影がISO800は標準的感度となっていたが、カラーになると、いかにも高感度フィルム
としての描写となる。イメージ写真なら良いが、一般的な表現ならば、ポジフィルムではISO400に留めたいところである。いや、出来ればISO200か。 そこでカラーの場合
光源状態によってCCフィルター(色調整用フィルター)を使用する。そうなると、その度合いによって、絞りを開ける必要が生じてくる。特に、蛍光灯は、2絞り近く露出補正が
必要になってくる。 そこで、このレンズのような大口径が必要になってくるわけだ。明るさの限界付近では、たとえ1/3絞りでも明るいレンズが欲しい。F1.4が完璧な明るさで
は無いが、物理的にこのクラスでは、最高である。それ以上無いものには、諦めが付くものである。
 しかし、1.4という明るさは、ピントの合う範囲が非常に狭い(被写界深度)。この特性は、85mmや50mmなら、背景や手前をぼかし、主体を際立たせる効果に有効なのだ
が、広角となると、その描写はなんとも言い難い。 広角は、広い範囲が写し込めるが、その特性は、カメラに近い物ほど大きく写り、遠近感を強調した撮影に有効である。
しかし、遠近感を強調するには、それなりの手前から後ろまでの深い距離を写し込むことになるのだが、被写体がさほど大きく無い場合(人の顔など)手前のピントが合わな
い面積がやたらと大きくなる。このレンズのボケ自体はきれいであるが、広角レンズで寄った場合、ピントが浅いと、それが、たとえ必要なものにピントが合っていたとしても
ピンボケ写真の印象となる。工場などへ行き働いている姿を撮るにあたり、平面的な場面なら問題ないが、遠近を強調した写真には、このレンズは向いていなかった。勿論
これは、レンズの欠陥ではなく、広角大口径を使った場合の自然な描写ということである。
 しかし、デジタルの登場でフィルターが不要となり、更に高感度ノイズが改善されてきた現在のデジタルカメラでは、従来言われた、撮影できる限界が従来と大きく変わっ
てきている環境下ではF1.4という明るさが、いかなる写真を提供できるか、興味深いものがある。







Ai AF Nikkor
28mm F1.4D

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