「シマッタ!」と顔に出さず  フィルム装填失敗 NikonF3
 フラッグシップフィルムカメラに対するニコンの姿勢で好きな部分がある。それは「巻き戻し
クランク」が装備されていること。モータードライブと一体化になったことにより、巻上げ・巻き
戻しが電動になったが、モーター作動音が迷惑となる撮影条件では、巻き上げに関してサイ
レントモードを用意し、(それでも手動が欲しいときもあるが)巻き戻しでは、無音の手動を使
うという考え方である。そして、もう一つ、心配されるのが、確実にフィルムが巻き上がってい
るかどうか、巻上げ時にクランクが回転していれば、フィルム装填が確実に成され、巻き上げ
ていることを示す、いたって原始的かつ、分かり易い確認方法である。
AF全盛期を迎えるにあたり、フィルム装填、巻き上げ・戻しが自動化される中で確実性を要
求される、プロの間では、何もかもが自動化され、「本当に問題なく動作しているのか」という
不安を解消する、心理的配慮でもある。
 しかしながら、気が緩んでいるときは、確認を怠り失敗を招くもの。ニコンF3までは、フィル
ム先端を巻き上げスプールに手動で差込み、引っ掛けて巻き上げる、完全手動構造である。
そこで、フィルムを例の如く装填し、裏蓋を閉じ、2、3回空シャッターを切ることで巻き戻しク
ランクが回転すれば、「問題なし」とカメラマン自身が認識をして本番撮影に入るのだが、惰
性となって無意識でその作業をしていたとき、モデル相手にバンバン、シャッターを切ってい
たが、なかなかフィルムが終わらない。そこで、カウンターを確認するととっくにカット数がい
っぱいになっているではないか。「シマッタ!フィルムがきちんと装填されていない」ということ
で、フィルムを入れ替えるポーズをとって「さあ、今のは練習です。これから、本番に入ります
」と言って撮影を続行した。他のカメラマンに聴くとフィルムを入れ忘れて、同じようなことをし
た経験があるという。 「スタジオでのモデル撮影で良かった」と安堵した次第である。


NikonF3


 ロケなどの前は、忘れ物がないか、慎重になるものだが、ある日、テレ朝にて芸能リポータ
ー梨本氏の取材撮影があった。前日に、持ち物を確認したが、翌朝、時間の余裕があり、再
度確認。そのときに、フィルムをカメラバッグから出し、本数を調べたまでは良いが、それを
バッグに戻すことを忘れ、テレ朝に着き、梨本氏のところへライターと行ったところ、梨本氏
は「大阪へ行かなければならなくなりました。申し訳ありませんが、時間を詰めてください」と
いう要請。「分かりました」と応え、フィルムをカメラに装填しようとしたら「フィルムが無い!」
そこでさりげなく、「話を進めてください、すぐに戻りますから」と一歩、部屋から出たところで
思いっきり走り出した。「アークヒルズだから、どこかに写真屋さんはあるだろう。都心だから
ポジも置いてあるだろう」と探し、見つけることができた。駆け足で戻り、部屋の前で息を整え
、さも何も無かったように「失礼しました」と撮影を開始した。
小生にとって、緊張が走った瞬間であった。






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