マニアックニコン   Nikon オート35

 Nikon AUTO35
 小生が中学3年の頃である。周りの友人たちの間でカメラが流行った。 
当時、少年が持つカメラとして玩具用に属する“エボニー35”なんていう
500円くらいのカメラを持っていた。今、持っていればそれこそ、マニアッ
クなカメラであったと思うが、この年の頃に話題になっていたのが、“コニ
カC35・ミノルタハイマチック・ペトリカラー35”当等。で、小生も欲しくなり
アルバイトをしてでも買おうと思ったところへ叔母が、「買ってやる」とのこ
と。そこで自分として気に入っていたのが“ペトリカラー35”であった。
このカメラはレンズが沈動式で、小柄でなかなか格好よい。そこで「ペトリ
が欲しい」といったところ「そんな変なカメラはダメだ」と言われ、元々、カメ
ラを持たせたがらなかった親が、同調して猛反対の目に合い、結局、買っ
てもらう話はご破算となった。
 問題なのは、冬休みの間に「カメラを買う」と豪語してしまった小生が、友
人にどういうか・・・。で、素直に買えなかったことを言えば良かったのだが
つい、見栄を張って、当時、カメラを詳しく知らなかった小生は、叔母が持っ
ていたニコンを思い出し「ニコンを買った」と言ってしまった。そうしたら、この
時代、少年たちの間ではニコンは憧れのカメラで大騒ぎになった。そう、ニ
コンは一眼レフメーカーで一眼レフは、夢のまた夢であったからだ。更に、
小生は口からの出任せでペトリが斜めにシャッターボタンがあったことを思
い出し、「斜めシャッターのニコン」などと発言し、友人たちの間で「デタラメ」
と散々言われた。デタラメであったことは事実なのだが、それでも面子を飾
り叔母のカメラをこっそり見たら、何と斜めシャッターのニコンであった。
 こんな偶然があるものだと感心し「シメタ!」とばかりに学校で再び論争を展開。ところが、この時代、ニコンオート35は既に生産されてお
らず、おまけに“ニコン”を冠するカメラはプロ向けのF。ニコンはプロフェッショナルの称号でアマチュアは“ニコマート”であった。したがって、
ニコンオート35を名乗っても信じてもらえず、「そこまで言うなら説明書を持って来い」という話になって、それを叔母に言えず辛酸を舐めた
経験がある。「カメラを買った」は嘘であったが、悔しい思いをしたものだ。
 それから2年して頑張って買ったのが分不相応なニコンF2であった。今度は文句なく自慢の逸品となったのだが、この時代のニコンのライ
ンナップを考えると、ニコンオート35の存在は今ひとつ理解しがたい。実在したカメラではあったが、まるで幻を見ていたかのような気分にな
り、改めてこのカメラを預かって触れてみた。叔母も全く使わず、押入れに入れていたのでレンズにカビが生えてしまっていた。
 しみじみと眺めて、「不恰好なカメラだなあ」と思った。一眼レフなのにペンタプリズムが無い。ペンタ部の高さをそのまま幅いっぱいに引っ張
っているので妙に頭でっかちである。後々考えたのだが、ドイツ、フォクトレンダーの“ビテッサ”がこんな感じで、まるでスキンヘッドだ。当時
はこれが「格好よかった」のかもしれない。更にこのカメラで驚くのが、レンズシャッターであること。しかもクイックリターンである。レンズシャッ
ター式の一眼レフといえば“ハッセルブラッド”であろうが、構造上、クイックリターンは採用していない。したがって、このカメラは、安価なクラス
として作られたが、ある意味恐ろしく高度な技術が使われていたことになる。ただ、何故、ニコンがこのようなカメラを作ったのかは未だ理解で
きない。
 カメラマンである友人にこのカメラの名前を言っても「知らない」といわれてしまうが、上記理由から小生には忘れられない楽しい思い出のカ
メラである。





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