【知道中国 177回】〇八・八・初四
「環境と文明の世界史」

  ―中国文明には「欲望にたがをはめる原理が無い」

 「人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ」とのサブタイトルを持つ本書で、「人類が営々と築き上げてきた文明は、頻繁に変化する環境とともに興亡を繰り返してきた。人類の飽くなき知恵と欲望は、今日の『繁栄』をもたらしたが、次々に自然を破壊することで、地球環境の悪化をもたらした」。それゆえ「人類の歴史は、自分たちが自然環境に生かされることを忘れた滅亡への道でもあった」という視点に立つ3人の著者が、専門とする環境学、環境考古学、比較分明史、経済人類学の最新の研究成果を披瀝しながら、対談という形で人類の歩みと環境の深いかかわりを説き明かそうとする。

 戦後の日本では、高度経済成長とマルクス主義史観が環境史を押しつぶすという“犯罪”を引き起こしてしまった。いったい、なぜ、そんなことが起こってしまったのか――と、先ず問題提起した後、「ネアンデルタール人とマンモスはなぜ絶滅したのか?」を皮切りに、「第一部 現代型新人の誕生から古代文明の崩壊まで」「第二部 グレコ・ローマ文明の誕生から中世ペストの大流行まで」「第三部 ヨーロッパ世界の拡大から『欲望全開』の世紀まで」「結び 環境史から人類の未来を問う」までが縦横無尽に語り尽くされている。

 生きていくために自らが手を加えた環境にシッペ返しされる文明――人間の営みというものが世界史レベルで俯瞰されながら進められる3人の対談は、中国文明と森林との関係に論がおよぶや面白さはいや増しに増し、まさに目からウロコ状態だ。

 「(かつて長江流域も)大森林地帯だった。それに比べ華北地域は、すでに九〇〇〇年前くらい前から森林破壊が進行し、華北平原はあまり森林のないところでした。そのため漢民族が紀元二〇〇〇年以降大挙して南下し(江南に)徐々にコロニーをつくっていき。

 「古代中国の場合、長江流域には日本列島の照葉樹と同じようなカシやシイの森があり、それを破壊していった。たとえば湖南省長沙の馬王堆は前漢時代の地方の王ですが、彼の遺体は直径三メートルほどの木槨の棺の中に入っている。そんな木を十分に手をいれるだけの森林資源があったわけです。(改行)そうした森林が消滅していくプロセスもだいぶわかってきた。森林が消滅したことによって、文明がどのように崩壊していったのか?

 「いろいろな研究成果によると、黄土は巨木を支える力を持ちません。もともと華北大平原には自然林がなく、造林にも向かなかった、と。

 「大行山脈の森林は唐代に消滅する。黄土地帯は、春秋戦国時代には森がほとんでない状態です。山東半島は別ですが、唐代には依拠できる森林資源はほとんどなかった。「気候の寒冷化によって漢民族が北方から怒濤のように南下してくる。それによって、もともと長江流域にいた人々が追い出され・・・」 かくして「森を破壊する元凶は鉄と中華料理だった」となり、3人の対談者は声を揃えて漢民族をインド・ヨーロッパ語族と肩を並べる「森林の破壊者」とし、中国文明には「欲望にたがをはめる原理がない」と結論づける。一見して荒唐無稽で過激すぎるようだが、“爆食”とまで形容される昨今の食糧消費から貪欲なまでのエネルギー資源漁りまでをみせつけられると、たしかに「欲望にたがをはめる原理がない」とのと考えに与さざるをえない。このまま放置すれば、地球は中国文明に食い尽くされてしまう運命なのか。 《QED》