【知道中国 229回】〇九・四・初三
『中国奴工黒幕』
―中国の末端農村は「土皇帝」の天下である―


  『中国奴工黒幕』(施為鍳 文化芸術出版社 2007年)

 中華文明発祥地といわれる河南省と隣の山西省で、07年の6月から7月にかけ知的障害者、子供、農民などを奴隷のように扱ったレンガ工場が数多く摘発された。この本は、そんな劣悪な労働環境工場の実態を白日の下に晒したルポルタージュだ。副題はズバリ、「二十一世紀中国新国恥内幕全披露(21世紀中国の新しい国恥の内幕を全て暴露する)」。

 奴工と呼ばれる彼ら労働者は、「販奴者」「人販者」「猟人者」など、なんとも禍々しい響きを持つ名前の人買い業者によって買い集められ、仲介業者である「黒仲介」の手を経て各地の「黒工場(ヤミ工場)」に売り飛ばされる。劣悪極まりない職場環境に放り込まれた彼らは「包工頭」の厳戒下で働くのだが、その配下の暴力的な監視役が「打手」「看場子」。彼らを徹底してこき使う違法・悪徳のヤミのレンガ工場を「黒磚窯」と呼び、経営者の大部分は地元の地方政府や党の幹部であり、当然のように公安は仲間。だから蛇の道はヘビ。

 90年代に入り、中国政府は末端農村を直接管理する制度を改め、村民が選んだ代表が村を管理・運営する方式へと大転換をはたした。形の上では民主的で村民自治と聞こえはいいが、じつは黒磚窯を生む土壌となる。村民による選挙とは名ばかりで、大家族の族長、黒社会の親分、改革・開放の波に乗ってボロ儲けした勝ち組の金持たちが村を取り仕切る権限を“合法的”に掠め取ってしまった。実態はこれだ、と著者は主張する。

 かくして「かつて農村を牛耳っていた悪徳地主が如何に悪辣な手段で農民を虐げていたかを、共産党は宣伝する。だが今日、暴露された事実からみて、農村の共産党書記は過去の地主とは比較にならないほどにアコギで強暴だ。自然災害に襲われた時、昔の地主は粥の炊き出す施設を作り、善行に励んだもの。これに較べ共産党書記は常に悪辣至極。善行を施す素振りなど、これっぽっちも見せようとしない。そのうえ彼らは無心論者で死んだ後に地獄に落ちるなんてことを最初から信じない」。そこで末端農村では怖いものなし。管轄内の農民の生殺与奪の権を我が手に握り、「土皇帝」と呼ばれ皇帝然と振る舞う。

 地方農村は土皇帝の天下と化した。農民から土地を二束三文で巻き上げて企業にバカ高く売りつけて大儲け。なにをしようが思いのまま。極端な場合、犯罪者である地方政府幹部と公安とが同一人物というわけだから、逮捕される気遣いは一切無用。しかも北京の中央政権が掲げる国是は経済発展。ならば儲けることはいいことだ。で、デタラメのし放題。

 著者に拠れば、中央政府が発する行政文書は最末端の地方政府に届く頃には「トイレットペーパー以下」。なんの役にも立ちそうにない。奴隷労働が後を絶たないのも、中央政府の威令が中国全土の末端に届かず、土皇帝が中央政府など“屁”とも思っていないところに原因がある。土皇帝からすれば、北京における権力闘争も路線対立も関係ない。彼らの既得権益に手出しせず口を差し挟みさえしなければ、共産党万歳バンザイ万々歳なのだ。

 この本に「人肉磚頭(レンガ)」が登場する。奴隷労働の証拠隠滅のため、人体を粉々に砕き土と捏ねて焼き上げたレンガを指す。志怪小説と呼ばれる古典的怪奇小説や古典京劇舞台では時に登場する話だが、21世紀の今日に行われていようとは。話半分としても、悲しいまでの“伝統文化”への回帰。現在の中国は後ろ向きに驀進しているようにも思える。それにしても農村の伝統的権力構造が秘めた復元力は、空恐ろしいばかりだ。  《QED》