【知道中国 253回】〇九・六・三〇
「愛国教育基地探訪(その15)」
―新しい時代の、危ないニュービジネス・・・―


    ――新しい時代の、危ないニュービジネス・・・

 天津、唐山、秦皇島、遵化と回り、5日目の承徳でやっと「牛皮癬」に出会うことができた。予想に違わず奇妙奇天烈。それに汚い。だが面白い。やはり何でもアリということだ。

 承徳でも早朝の街を歩く。肯徳基(ケンタッキー)で買ったコーヒーを手に朝市を冷やかし、なにやらいかがわしい看板の並ぶ裏道を抜けて大通り出る。と、目の前のバス停付近の車道の歩道寄りの路面に、チョークで携帯電話の番号と共に「辦証」とか「辦証代款」との文字が1,2メートル間隔で書き連ねられている。その長さ、約50メートル。ところどころ電話番号も書体も違っているから、複数の書き手がいるということだろう。これが新生事物の牛皮癬――お手軽な広告である。なぜ、この種の広告を牛皮癬と呼ぶのか。消しても消しても現れ、気がつかないうちに街全体の美観を損ねかねないところから牛の皮膚病にたとえたんではなかろうか、との説もある。

 さて、その内容だが、辦証は自動車免許、卒業、結婚などに関するニセ証明書作ります、といったところ。ニセの証明書を本当に製造する業者、いわば本当のニセモノ作りの広告だろうことぐらいはと見当がつく。一方の代款だが付款ならカネの支払いということになるが、代款がよく判らない。

 そこで、例によって道行く何人かに厚かましくも聞いてみる。「あれは辦証と代款の2つの広告だ。辦証は以前からある商売でニセ証明書作り。一方の代款だが、代は本来は貸の字を書くべきで貸款、つまり金融業だ」。いわばニュービジネスの広告だった。ニュービジネスとはいうものの、店舗は要らず携帯電話1台あればいい。何処の誰がやっているのか皆目不明というから、所詮は非合法で危ないはず。そこで手口を聞いてみると、電話をすると相手は銀行口座を指定して、一定の金額を振り込むことを求める。この辺では500元が相場らしいが、これが保証金ということになる。保証金が振り込まれたことを確認したら、こちらの口座に1万元まで振り込んでくる・・・という余りにもオイシイ話。

 電話だけで互いに相手の顔を知らない。何処の誰かも判らない。そのうえ無担保。だから500元が信用保証になる・・らしい。500元とはいうものの、皿洗いの月給の1ヶ月程度だ。返済は業者の指定口座に振り込むことで済むんだから面倒なことは一切なし・・・ここまで聞いて、我が日本で年寄り相手に猛威を振るう振り込めサギではないか。ということは日本帰りが持ち込んだのか。日本での被害額の多さを聞き及んで活学活用するようになったのか。それとも日本での成功に味をしめたワルたちが携帯電話の普及を待って中国でも始めたのか。犯罪は容易に国境を越えるというが、確かにそういうことだろう。

 なにせ朝の街には物見高い暇人がゴロゴロ。次々に人が集まってきては日本からの遠来の珍客に、「あっちに行けば『二手車』とある」「家の近くで『黒車』ってのを見た」「昨日は『包生児子』があったぞ」と、牛皮癬についてのゴ高説を垂れてくれる。「二手車」は中古車販売だろうか。「黒車」は事故でも起した廃車を売りつけようというのか。「包生児子」は代理出産に違いない。時間をかけて街を歩けば種々雑多な牛皮癬に出会え、そこから庶民の日常生活が浮かび上がってくるはず。だが残念ながら承徳滞在時間は残り少ない。

 それにしても路面まで広告に使うとは・・・恐れ入りました。降参デス。(この項、続く)  《QED》