【知道中国 288回】〇九・十・初三
―皆さんをゴ招待してみましたが・・・

 9月28日午前、バンコクのスワンプーン国際空港に続々と到着する超高級車から降り立った人々を迎えるのは、中国大使館首脳陣だ。やがて出発式典が始まる。大使の代理だと断った後、公使は「皆さんは中国政府の招待を受け中国建国60周年記念式典に参加されることとなりました。建国以来60年、ことに改革開放から30年、中国は目を見張るばかりの成功を収めましたが、これはタイ華人からの支持と切り離すことはできません。北京での見聞を、どうか帰国後にタイ華人社会に紹介して戴きたい。北京滞在の間、ことに国語の話せない仲間を気遣い、中華民族の伝統的な美徳を発揮されることを切望致します」と挨拶し、一行を送り出した。

 公使が中国語を敢えて「国語」といい、タイの華人に「中華民族の伝統的な美徳を発揮」することを求めたことも興味深いが、そんなことより注目すべきは訪中団一行の顔ぶれだろう。豪華絢爛・満漢全席・・・主だったメンバーを挙げてみると、

 タイ最大のバンコク銀行を率いる陳有漢(チャトリ・ソポンパニット)。タイと中国の民間経済交流の柱でもある泰中促進投資貿易商会主席の李景河(スチャイ・ウィラメタクーン)。タイ最大の多国籍企業で突出した中国投資を続けてきたCP(正大)集団総帥の謝国民(タニン・チョウラワノン)。この3人とアピシット(袁順利)現政権閣僚との関係をみると、カラヤー科技大臣はチャトリの異母弟夫人である。外務大臣を差し置いて対中外交を取り仕切っているとも伝えられるウィーラチャイ(李天文)首相府大臣はスチャイの息子で、タニンの娘婿。李一族は、超優良経営で知られるファーマーズ銀行を軸とする企業集団を経営し王室とも縁戚関係にあるラムサム(伍)一族を経由して名門チャティカワニット(蘇)一族にも繋がる。その蘇一族の明日を担うのがコーン財務大臣。ついでにいうならコーン財務大臣とアピシット首相とはケンブリッジ大学以来の刎頚の友とか。

 つまりチャトリ、スチャイ、タニンは現アピシット政権閣僚の兄、父親、岳父、おじさん。アピシット政権中核の近親がタイの対中ビジネスの指導的役割を担い北京とツーカーの間柄。かくて官と民、それに閨閥の複合体による対中ビジネスというカラクリとなる。

 一行の団長を務めるのはタイ華人社会の最高決議機関ともいえる中華総商会主席。以下、潮州会館、広肇会館、福建会館、海南会館、台湾会館、雲南会館、広西会館、江浙会館などの省レベルのみならず県レベルの同郷会館、各種慈善団体、慈善病院、泰華各姓宗親総会、華人学校の責任者たち――タイ華人社会指導層オールスターである。だが、もう1人注目すべき人物がいる。タイ政府貿易院米部会会長、米輸出商会主席、メイズ製造・輸出協会主席などを歴任しタイの主要農産物輸出政策に大きな影響力を保持し続ける胡玉麟(サマーン・オーパーサウォン)だ。訪中団における肩書は、華人社会では世界最大級の慈善団体で知られる華僑報徳善堂董事長だが、本業は米を主体とした農産品商社のホワイチュワン(匯川)集団の総帥で、数年前からタイ米の中国輸出に積極的に取り組んでいる。

 中国政府はタイ政財界中枢に加え華人社会指導者を纏めてゴソッと天安門広場にゴ招待し、華々しい軍事パレードをゴ覧願ったわけだが、さて彼らは「北京での見聞を」、どのように「帰国後にタイ華人社会に紹介」するのか。「目を見張るばかりの成功」なんぞを喜々として口にするほど、彼らはウブではないハズだが・・・。面従腹背、興味津々。  《QED》