【知道中国 291回】〇九・十・十
―嗚呼いつの日、中国公民は“正しく文明的”になるのか


 9月中旬の成田空港。手荷物検査は込み合っていた。長蛇の列の最後尾から前方を見ると、なにやら人だかり。大声で騒がしい。列を離れ写真を撮ったり、割り込んだりと傍若無人。やはり「郷に入ったら郷を従わせる」勢いの中国人観光客の一団だった。やがて彼らの手荷物検査がはじまろうとした時だ。さすがの彼らだって100㏄以上の液体の持ち込めはしない。そこで手にしたペットボトルや魔法瓶の蓋を開けて中の液体をゴミ箱やら床にブチ撒け、我先に検査ラインに突進する。辺り一面は水浸しだが、構うもんか。

 じつは今、こういった「非文明(非常識で身勝手)」な行動に対する注意喚起を目指す中国外交部領事司が「海外中国公民文明指南」を発行している。おそらく世界各地の中国大使館に用意してあるはず。というのも、9月中旬にバンコクの中国大使館で入手したからだ。4つ折りになった手のひらサイズのやや厚手の紙の裏表に、簡単な文章とイラストを使って中国公民、つまり中国国民が海外で守るべき文明(=マナーとモラル)をイラスト入りで解り易く指南しようという試みだ。「文明挙止指南」「文明社交指南」「中資企業機構文明指南」の3つに分かれ、さらにゴ丁寧にも「現金所持は少なめに。銀聯カードを多用すれば、人身・財産はすべて安全」と、中央銀行に当たる中国人民銀行主導で02年に導入され中国の銀行が発行するキャッシュ・カードの銀聯カードを使えと奨励する。人民元至上・金融愛国主義とでもいうべきか。因みに銀聯カードは、すでに60数カ国で使用可能だそうだ。

 文明社交の項目をみると、「相互尊重」「真誠相待(表裏ない付き合い)」「寛容大度」「厳于律己(相手の嫌がることはしない)」「把握分寸(対等の付き合い)」「尊厳差異(相手の違いを認める)」「積極融入(郷に入れば郷に従え)」とあり、全体的に己を押さえよという調子だが、やはり最後は「心系祖国(常に愛国・民族自尊心)」を忘れない。

 文明挙止は、「講究儀容儀表」「注重個人修養」「遵守公共秩序」「尊重風俗習慣」「愛護公共施設」「遵守公共規定」「維護環境衛生」「講究環保節約」「奉行健康娯楽」と並ぶ。漢字をみれば、内容は凡そ見当がつくと思うが、その説明が面白い。たとえば「維護環境衛生」はゴミを捨てるな。モノを不法投棄するな。水を勝手にブチ撒けるな。むやみに唾を吐くな。鼻水を飛ばすな。たばこの吸い殻を投げ捨てるな。噛んだガムをどこにでも吐き捨てるな。トイレが終わったら水を流せ。「講究環保節約」は、水や電気を無駄に使うな。バイキングの際は皿には適量を取れ。食べ終わったら、また取ればいい。食べきれないほど取ってきて、山のように食べ残すな。「奉行健康娯楽」は色情・賭博・薬物を拒絶せよ、だ。

 以上は一般観光客用で、「中資企業機構文明指南」は海外で働く中国人ビジネスマン向けで、「樹立風険意識(リスク管理)」「明確安全成本(資本・人員の安全確保)」「堅持守法経営」「履行社会責任」「提唱誠実守信」を貫くことで「共建設和諧世界」に至ると訴える。

 どの項目をみても、もっともらしいことが並ぶが、観光であれビジネスであれ海外に飛び出す中国公民がそうしないからこその官製の「文明指南」となったわけだろう。この種のパンフレットを発行し教育しなければならないところに、現在の中国公民の“文明度“があるわけだ。そういう我らも、左程に大きなことはいえないが、ここで1つ提案。日本の空港当局は「海外中国公民文明指南」を入手し、大きく引き伸ばし張り出してはくれないだろうか。もっとも、心此処ニ在ラザレバ見テモ見エズ・・・ともいいますが。  《QED》