【知道中国 347回】 十・二・初二
――そりゃあ無理ってものです・・・違いますか

 『新加坡的精神文明』(中国赴新加坡精神文明考察団 紅旗出版社 1993年)

 「シンガポールの厳格に管理された社会秩序を学び、彼らの経験に倣って彼らより立派な管理をすべきだ。
 シンガポールの経済発展は速く、社会秩序と精神文化は確固として突出しており、かねてから我われも注目していた」との鄧小平の考えに従い、党・政府幹部や新聞記者などで構成された赴新加坡精神文明考察団はシンガポールを訪問し、92年7月後半の2週間ほどをかけて住宅政策、官僚の汚職・腐敗対策、西欧文化への対応、労働組合と企業経営、メディアのあり方、住民向けサービス、観光業、経済建設における政府の役割などを重点的に考察して回った。この本は、考察団が帰国後に提出した報告書である。

 彼らがシンガポールで最も深い印象を受けたのは「全世界で最も不正・汚職のない清潔な政府」と、「居者有其屋(居ス者ハ其ノ屋ヲ有ツ)」を目標に建国以来30有余年の努力で国民の87%が個人の住まいを持つに至った住宅政策――の2点だった。住宅政策は一先ず措き、公務員の不正防止策について考察団は以下の4項を着目することとなった。

 第1は「この(シンガポール)政府は先ず外資を導入しようとするなら、政府が安定し清廉でなければならないことを知り尽くしている。もし政府が金権汚職体質であったなら、海外ビジネスマンとの取引上、不利益を被る」。第2は「必要な待遇を保証すること。彼ら政府公務員の待遇は一般国民より高くなければならない」。第3は「規定に基づいて公務員の不正を困難にする。・・・公務員は毎年、自分と配偶者の収入額、貯蓄額、所有株式数、貴金属の明細、自動車、不動産などを含む全財産を国家に報告しなければならない。・・・前年に比べ増加した場合は財源を明らかにしなければならず、明確な説明ができない場合は不正と看做され処罰される」。第4は「割に合わなければ、敢えて不正は犯さない。・・・(たとえ僅かな不正であったとしても発覚した場合)退職後の生活のために積み立てた公的年金は没収される。医療費を含む一切の保障を失う。極めて厳しいものであり、誰もが不正など犯さない」

 かくて本書は「(以上の)不正防止4カ条を実践し効果を挙げ」「不正・汚職のない清潔な政府」を築いているシンガポールを賞賛し、中国も学ぶべしと力説するが、歴史的にも現状からも中国でシンガポール式の「不正防止4カ条を実践」することは、どだい無理な相談だ。現実的には、中央・省から地方末端に至るまで「政府が金権汚職体質」で、「海外ビジネスマンとの取引上」、大金が担当者個人の懐に転がり込むよう手練手管を弄する。「公財私用(公のものはオレのもの)」の4文字が示すように「政府官吏の待遇は一般国民より高」いことを当たり前とし、様々な特権を享受する。「役人の不正を困難にする」べく規定を定めたところで、太古から法治より人治であることを貫いてきた。だから処置なし。結局は「割に合」う場合が圧倒的に多い。「敢えて不正は犯さない」なんて甘い甘い、甘すぎる。こう考えると、このシンガポール旅行も態のいい海外観光だったと勘繰りたくなる。

 建国直後の51年から52年にかけ毛沢東が提唱してから現在の胡錦濤政権に至るまで、社会の不公正や汚職追放運動が全国規模で何回となく展開されてきたが、実効が上がったということを一度として聞いたことがない。党・政府幹部や公務員もまた、有史以来の漢民族の宿痾であり治癒不能な不正という業病を持つ。貪官汚吏は永遠に不滅デス。  《QED》