【知道中国 361回】 十・三・初六
――どうです、文革でヒト儲けしてみませんか

 『文革遺物  収蔵与価格』(鉄源 華齢出版社 2000年)

 この本を手にした時、文革も遂にここまで来たかと、思わず笑ってしまった。

 『文革遺物  収蔵・・・』との書名のままに、毛沢東バッチや語録からはじまりポスター、切符、絵や軸、現代京劇の台本、マッチやタバコのラベル、食糧や衣料の配給切符、封筒、切手、便箋、紅衛兵の腕章、鞄、カレンダー、お菓子の包装紙から果ては茶筒などまで――文革当時に使われた品々、いわば文革グッズの写真集だが、そこはそれ中国人ではないか。やはり転んでもタダで、いや失礼、単なる懐古趣味で終わらせるわけがない。書名に記された『・・・価格』の2文字を忘れてもらっては困るということデス。

 表紙にしっかりと「十年動乱光怪陸離 遺物龐雑 歴史見証 掌握先機潜利無窮(十年動乱奇妙奇天烈 珍奇な品が山をなす これぞ歴史の証拠なり いま手にしておきさえすれば、そのうちゼッタイ儲かりマス)」と書くことを忘れてはいない。つまり、この本はオ値段付きの文革グッズの競売カタログということになる。

 最もポピュラーな毛沢東バッジは七宝焼きのもので2元から10元と安いが、それだけ大量に出回ったということだろう。紅衛兵の腕章は5元から120元と各種各様。この本に収められた最高価格は李可染が描く「韶山 革命聖地毛主席旧居」と題する絵だ。1974年に制作され、大きさは141.5㎝×243.1㎝。毛沢東の生家を赤旗を高く掲げた紅衛兵たちが訪れる風景が描かれている。96年の時点で、なんと超高値の154万元。

 ところが、である。この本の面白いところはお宝の価格だけではない。知られることの少なかった文革当時の日常の一端が、数々の文革グッズから垣間見えてくるのだ。

 たとえば文庫本よりやや小ぶりなサイズの紅衛兵の身分証明証だが、写真付きで姓名、性別、年齢などの個人情報が書き込まれ、次に2ページにわたって「誓詞」が付されているが、その内容がなんとも勇ましく壮絶だ。「我らは毛主席の紅衛兵である。我らは革命の次の世代である。我らは紅旗の下で厳かに宣言する。/我らは永遠に毛主席に従って革命をやりぬくぞ! 革命のためなら、刀の山も敢えて登るぞ! 火の海だって飛び込むぞ! 我らが目指す先には毛沢東思想の赤い灯があり、我らは毛主席に従って決然と前進するぞ!/毛主席は我らの最高統帥であり、紅衛兵の心の中の最も赤い真っ赤な太陽なのだ! 大胆不敵にも毛主席に反対し、偉大なる毛思想に反対する奴ドモに対しては、我らは断固として徹底的に戦い抜く。/我らは懸命に最高指示を学習するぞ! 決然と最高指示を実行するぞ! 熱烈に最高指示を広めるぞ! 勇敢に最高指示を防衛するぞ! /山を揺さぶるは易く、紅衛兵を揺さぶるのは難し。プロレタリア文化大革命の徹底的勝利を奪取させないために、我らは休むことはない。全世界における共産主義の徹底的勝利を略取させないために、我らは死んでも目を閉じることはない」

 どうやら紅衛兵は、この誓詞を声高く読み上げ自らを奮い立たせて街頭で暴れまわっていたということか。それしても「刀の山も敢えて登るぞ! 火の海だって飛び込むぞ!」とは、なんとも勇ましく大袈裟。やはり“白髪三千丈式伝統”がシッカリと生きていた。

 その元紅衛兵世代が「刀の山も敢えて登るぞ! 火の海だって飛び込むぞ!」の精神でカネ儲けに邁進した結果が現在の経済大国。これぞ文化大革命の徹底的勝利だ。  《QED》