【知道中国 402回】 一〇・六・仲一
――“いま”を語る2つ巨大看板

    愛国主義教育基地探訪(4-10)

 道路は黒い大地をまっすぐ左右に分けるようにして進む。目に入ってくるのは対向車と、道路の側壁、集落の壁、横断歩道橋などに記された防火を呼びかけるスローガン、加えるに極くたまに農作業中の農夫。

 スローガンに慣れた目に新鮮に映ったのが、直径50センチほどで高さは15メートルほどと思われる鉄製の円柱の上部に設置された、縦4,5メートル、横10メートル前後はあろうかというほどの2つの企業――1つは安売り航空チケット、1つは農場の巨大な看板だった。

 安売りチケットの広告主は春秋航空。春秋なのに英語表記ではSPRING AIRLINSというのが、なんともオカシイ。看板の下半分には上海を思わせる近代的都市が描かれ、看板の向かって右端には嫣然と微笑むスチュワーデスの巨大な上半身。そして看板の中央には、一段と大きな文字で「黒河⇔哈爾濱 網上特価機票99元起」。黒河とハルピン間の航空チケットだが、ネットで注文すると99元から購入できますよ、ということだ。いったい黒河・ハルピン間の正規料金が判らないので高いとも安いともいいようはないが、広告の常で、他にも割安チケット各種扱っていますとアピールしたいのだろう。

 この看板を眺めてみて、なにか不思議。改めて眺め直すと、わずかな漢字以外、ロシア文字で埋め尽くされているのだ。ということは、この航空チケット安売り企業の営業ターゲットはロシア人ということになる。ならば彼らは黒龍江を渡り、黒河の春秋航空で安いチケットを手に入れ中国各地、さらに中国以外の国々へ旅行するということか。黒河に近い黒龍江沿いのロシア人にとって、黒河は世界に開かれた窓口になるわけだ。とにもかくにも黒河経由ルートの方が簡便・安価に違いない。それは成田空港、セントレア、さらには関西空港へのアクセスの悪い地方の旅行者が、先ず韓国の仁川空港に飛び、そこから海外に向かったほうが時短・安価であるのと似ているように思えた。

 既にそうなっているのか。それとも、将来的にそうしようとしているのか。それは地方政府なり中央政府の方針なのか――何れにしたところで、黒河が中国人だけの街ではなく、黒龍江の向こう側に住むロシア人にとっては世界との接点であることは間違いなさそうだ。

 もう1つの看板は、上が白、下の方の5分の1ほどが淡い緑の緩やかなカーブで描かれ、白の部分の真ん中辺りを、やや小さめな文字で横に黒龍江省紅色辺境農場。その下に小さくHEILONGJIANGHONGSE BIANJIANG FARMと漢字の音をローマ字表記にして記されている。その横に小さく北大荒集団の5文字。これまで中国でみたこともないようにシンプルですっきりと洒落たデザイン。眺める者の注意を喚起するに十分だろう。

 紅色やら辺境やら、さらには文革中に下放された若者が送り込まれた北大荒などと、なんとも意味深な文字が並んでいるが、じつは北大荒集団とは黒龍江省農墾総局が経営する中国最大規模の国営農場が率いる企業集団であり、鉱山、農業・畜産製品加工、自動車部品・薬・酒類・肥料・農機具・セメント製造、映画製作、テレビ局経営まで650社を超える企業を抱える巨大コングロマリットなのだ。

 2つの巨大な看板は、確かに“東北部辺境の明日”を暗示していると見た。 《待続》