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【知道中国 424回】一〇・八・初一
――「血で結ばれた友誼」の嘘っぱち
『朝鮮華僑史』(楊昭全・孫玉梅 中国華僑出版公司 1991年)
北京では毛沢東から華国鋒・鄧小平・江沢民を経て現在の胡錦濤政権まで、ピョンヤンでは先代・金日成から当代・将軍サマの親子二代の間、「朝鮮戦争を共に戦った血で結ばれた友誼」というのが中朝両国関係を形容する“常套句”である。やはり何といっても「血で結ばれた友誼」は命の綱。これが切れたら金王朝が立ち行かなくなることは、誰よりも当の将軍サマ自身が一番にゴ存知のはず。だから北京に邪険に扱われようと、喉につかえた小骨のように思われようとも、ついてゆきます下駄の雪・・・。
この本は天安門事件の2年後、金日成(1912年から1994年)の死の3年前に当たる1991年に、「我が国華僑史研究を促進し、中朝両国人民の深い友誼を増進するため吉林省帰国華僑聯合会華僑歴史学会と吉林省社会科学院朝鮮研究所の共同組織」によって出版されているから、朝鮮半島の華僑に対する、この時点での中国側の公式見解とみてよさそうだ。
この本では朝鮮華僑の特徴を、①紀元前1066年に周の武王が商を滅ぼした際、殷の王族である箕子が5000人を率いて朝鮮半島に逃れたが、これを華僑の先駆であり、世界華僑史においても朝鮮華僑の歴史は最も古い。②朝鮮は中国に隣接し文化的にも近似していることから、生活するに好都合だ。③歴史的に中朝両王朝は主従の関係にあり、それゆえ歴代の朝鮮王朝は華僑を優遇してきた。④多くは戦乱や飢饉を逃れ生存の道を求め朝鮮に渡った名もなき人民だが、次が商人で、なかには王公貴族、大臣、名望家、文人たちの子孫や画家、医師、技術者、僧侶など多士済々だ。⑤朝鮮半島における孔子の子孫一族の広がりに典型的にみられるように、漢民族の伝統文化を保持している。⑥朝鮮半島で華僑社会が本格形成されたのは近代以降であった。⑦経済、文化のみならず、たとえば「”三・一“人民大起義(三・一万歳事件)」や朝鮮戦争参加にみられるように、朝鮮に大きな貢献をなしてきた。⑧経済力は脆弱だ。⑨人口は減少の一途を辿っている――としている。
だが、ここにすでにムリとウソがある。
たとえば華僑経済脆弱の原因を「1945年の日本投降後、朝鮮の華僑経済は復興傾向をみせたが、今度はアメリカが1950年に朝鮮への侵略戦争を発動した。北部華僑の大部分は帰国し、南部と北部の華僑経済は戦争により重大な損失を被った」ことに求めるが、朝鮮戦争がアメリカによって引き起こされたものではないことは既に明らかであり、「南部」では李承晩以来の歴代政権が政策的に華僑の経済活動を制限し、「北部」では金日成政権が一種の朝鮮民族純化政策を推し進めたがゆえに、華僑経済は衰退せざるをえなかったわけだ。
また「今日、朝鮮に定住する者は極めて稀である。50年代以降、北部の朝鮮華僑は大量に帰国し、南朝鮮の華僑は米州や大洋州に移住するものが増加傾向にある」ともするが、どんな物好きだって、「今日、朝鮮に定住する」わけがない。
客観的にみるなら、北朝鮮の金王朝が掲げる「主体思想」と「千里馬精神」と「先軍思想」は過激な民族至上主義であり、異民族であればこそ華僑としての活動を封じ込めてきたのだ。この措置に北京が沈黙せざるを得なかった最大要因は、対日・韓・米・露外交関係には金王朝という持ち駒が必要不可欠だったから。いわば「血で結ばれた友誼」という大前提がある限り、朝鮮華僑のありのままの姿を語れるわけがなかろうに・・・。 《QED》
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