【知道中国  444回】       一〇・九・初七

     ――李企業集団の経営方針が・・・これだ

 敢えていわせてもらえば、シンガポールはクニではない。その証拠に文化もなければ歴史もない。天地創造に繋がる雄渾なクニ産みの神話もなければ、稀有壮大な民族の叙事詩もない。シンガポールは今年が建国45周年。確か80年代末、李光耀は「我らには5000年の歴史がある」と豪語していたが、4955(5000-45)年の歴史はどこにあるの、とツッコミを入れたくなるが、なにはさておき溢れるばかりの企業家精神は認めます・・・ハイ。

 8月末、シンガポールの統計局が発表した「2010年人口調査」によれば、現在の総人口は30年前の1980年の2倍強の507万6700人。その内訳は公民(=国民)が323万人、永久居民(=永住外国人)が54万人、非居民(=短期在住外国人)が131万。公民と永久居民は民族別に、華族=漢民族系が279万4000人(全体比:74.1%/2000年は251万3800人)、馬来族=マレー系が50万3900人(13.4%/45万5200人)、印族=インド系が34万8100人(9.2%/25万7900人)、その他が12万5800人(3.3%/4万6400人)となっている。全体比をみると、インド系とその他が増加し、漢民族系とマレー系が減少しているが、数字からいうなら漢民族系の28万人を筆頭にどれもが増加している。因みに2000年の人口は402万7900人であり、直近の10年で100万人ほどが増えていることになる。

 なぜ、出生率が長期低落化しているのに人口が急カーブを描いて増加しているのか。それはシンガポール政府の政策にあるように思える。

 8月29日夜、李顕龍首相は国立シンガポール大学文化センターで行われた建国祝賀大会において、シンガポールの持続的成長を目指した構想を発表した。1時間半ほどを使った英語講演が柱ではあるが、そのうえにマレー語と中国語での講演も加わり総計で3時間弱。IT機器を使いテレビを通じて直に判り易く国民に語り掛ける積極姿勢は、政府の最高責任者としての責任感と矜持が感じられた。「命を守りたい」「市民参加の政治」「生活第一」「政治主導」など、愚にもつかない抽象的議論を繰り返している我が国の惨状とは雲泥の差だ。

 「どのような政策、社会環境であれ、変化は人々に不安を与える。だが、マイナス面での影響を排除すべく、政府は必ずや具体的行動を以って取り組む。それゆえ各位が安心されんことを希望し、同時に政府の試みにご理解を願いたい」と切り出した李首相の主張を要約するなら、経済を成長させるためには「人材確保」が必要だ、ということ。

 資源のないシンガポールが持続的発展を目指す一方で、確実に進行している高齢化社会へ対応を考えるなら、最も有効な武器は先端技術であり最新科学技術だ。そのためには教育体制の一層の効率化と充実を図らなければならないが、それだけでは不十分だ。やはり他から優秀な人材と単純労働者を大量に招来する必要がある。だが、その結果、国民各層に不満と不安を招きかなない。そこで十分な配慮をするから、「政府を信用せよ」となる。

 ここまで聞いて、冒頭の疑問が頭を過ぎった。シンガポールはクニではない。巨大な企業集団なのだ。創業者で元首相の李光耀がCEO、前首相の呉作棟が経営最高顧問、現首相が社長、公民が正社員、永久居民が派遣社員、そして非居民はアルバイト・・・。

 正社員よ、諸君の立場は守られているから安心して働け。派遣社員よ、アルバイトよ、業績次第で正社員への道は開けている。悪いようにはしない。奮闘努力だ。従業員一同よ、会社の業績を挙げてこそ諸君の未来は明るいのだ――李社長の獅子吼は続く。  《QED》