【知道中国 463回】       一〇・十・仲一  

     倹約力行こそが「我が偉大なる祖国」への道だった・・・ハズ

     『談談増産節約』(上海人民出版社 1974年)

 この本は、上海絨毯三廠工人学習政治経済学小組と復旦大学経済系財貿教研組の共同執筆だ。出版当時は四人組の絶頂期、加えて執筆陣が四人組の拠点であった上海の有力労働組織と理論研究教育担当部門――これだけ“役者”が揃えば、この本を読まなくても内容は判るだろう。とはいうものの、やはり目を通しておこうではないか。いまや死語と化した「臍がお茶を沸かす」という表現を思い起こさせるに十分な荒唐無稽的へ理屈が、生真面目千万な口調で縦横無尽に語られている。論旨が過激になればなるほどに、クスクス、ゲラゲラ、ニヤニヤとなること請け合いであることを、保障します。ゼッタイに。

 先ず「中華人民共和国成立以来、我が偉大なる祖国を現代工業、現代農業、現代科学技術と現代的国防機能が備わった社会主義強国に建設するために、全国の労働者は自らを主人公と自覚した態度を以って、党の呼び掛けに積極的に呼応し、増産・節約運動を広範に展開してきた」と、建国以来の歩みを前向きに総括している。さらに、建国後の毛沢東路線の精華として文革を高く評価し、「毛沢東の革命路線の導きに沿って、劉少奇、林彪の修正主義路線を批判し、広範な労働大衆は社会主義の積極性をより一歩高め、奮闘力戦・倹約建国の思想をより深く体得し、増産節約運動はより広範に、より深化をみせ、湧き上がるように発展し、社会主義革命が推進され生々化育されるなかで、新しい生産建設の高波がまさに怒濤のように押し寄せ、高まっているのである」

 こういう美辞麗句のみ重ねながら現実の一切を糊塗し、深刻な現実を一切隠蔽してしまおうとする文体を社会主義的駢儷体、あるいは毛沢東路線ヨイショ文体とでもいえばいいのだろうか。かくもバカバカしい文章は、いまや将軍サマが導き賜う先軍政治の社会主義強盛大国でしかお目にかかることはできないだろう。俗にいう「ウソ八百」なる表現に倣うなら、この手の文章などは「ウソ八兆」「ウソ八京」、いや「ウソ∞」と表記すべきだ。

 それというのも、たとえば大躍進。「全国の労働者は自らを主人公と自覚した態度を以って」立ち向かったかどうかは知る由もないが、毛沢東が絶対権力を掌握していた「党の呼び掛けに積極的に呼応し、増産・節約運動を広範に展開し」た結果、「現代工業、現代農業、現代科学技術と現代国防が備わった社会主義強国」は夢のまた夢。「我が偉大なる祖国」に、4000万人前後の膨大な餓死者を生んだ“この世の地獄”を現出させてしまった。トホホ。

 この本は、「要するに党の指導を強化し(中略)、思想政治教育を強め、反浪費闘争、勤倹建国・奮闘努力思想の確立、全面的節約と民衆の観点を絶え間なく展開しなければならない。このようしてこそ、増産節約という社会主義の方向が堅持可能になり、より快くより無駄のない社会主義建設が可能となる。我が国を現代工業、現代農業、現代科学技術と現代的国防機能を備えた社会主義強国として建設することこそが、世界革命にとって計り知れない貢献となるのだ」と結論づけている。

 社会主義の要諦は節約だ。増産と倹約こそが社会主義への道を切り開く。労働者こそが節約増産の主力部隊だ。困苦勉励・奮闘努力こそがプロレタリア階級の革命的本質だ。革命の全情況を胸に抱き、節約増産に励もう――数々の“高邁な理論”に接し、いま「我が偉大なる祖国」で浪費に耽溺する亡者共にこそ、この本の輪読学習を強く薦めたい。  《QED》