【知道中国 465回】       一〇・十・仲五   

     ――「中華民族の偉大な復興」が・・・傍迷惑なんです

     『初中 歴史 基礎知識全表』(李作為 海豚出版社・中国国際出版集団 2009年)

 なによりも「作為」という著者の名前からして意味深だが、それはそれとして、「最近の各地の中学の試験を分析してみますと、ますます基礎的な部分の比重が高まっています。そこで最新の教育課程に則って本シリーズを編集しました。数学、物理、化学の概念、公式、定理は順序立てて配列することで一目瞭然。出題傾向に併せて判りやすく解説しています。語文、英語、歴史、地理、生物、政治の知識は体系的にまとめ、覚え易く、調べ易いように図表化しました。試験直前、本シリーズは記憶強化の手助けとなり、あなたの成績はより高いものとなるでしょう!」――この本の宣伝惹句だ。つまり、これは現在の中国の中学教育課程に準拠した受験参考書シリーズの1冊。この本を買って一心不乱に勉強にすれば成績向上間違いなし、といったところだ。        

 「第一部分 中国古代史」「第二部分 中国近代史」「第三部分 中国現代史」「第四部分 世界古代史」「第五部分 世界近現代史」と分かれていてが、共産党が“大活躍”する中国現代史の部分に最も多く頁が割かれていることは、改めていうまでもないことでありゴ愛嬌。それにしても、古代史は中国文明の起源ではじまり春秋戦国で終わりかと思ったら、なんと清朝末期まで。中世も近世もなく、古代が一気に近代に突入するという乱暴極まりない歴史認識のままに、現代史の流れは次のように捉えられている。

 中華人民共和国は1949年9月の第1次政治協商会議と10月1日の中央人民政府委員会第1回会議の2つの会議を準備工作の柱とし、天安門における建国式典を出発点に、①国民党を含む敵対する残存勢力殲滅、②チベットの「平和解放」、③朝鮮戦争における抗米援朝、④地主から土地を取り上げ土地を持たない農民に分け与える「土地改革」――この4つの過程を経て、政権基盤が強化されていった。

 53年に策定された第1次5ヵ年で「国家の物質的基盤が初歩的に固まり」、54年に中華人民共和国憲法が制定され「我が国の民主と法制建設が保障され」、53年から56年の間に

 都市と農村の初歩的集団化が進み「社会主義の初級段階に入った」わけだが、58年の大躍進と人民公社化は「失誤」であり、66年から76年まで続いた文革は「試行錯誤」だった。

 78年末に改革・開放に踏み切ったことで、「農家の請負制度」と「国有企業改革」を柱とする「改革開放」が進行する一方、50年代末から文革期にかけての無実の罪を負わされた人々の名誉回復がなされ、法体系が全面的に完備された結果、国を挙げて「中国の特色を持つ社会主義の建設」に向かうことで、「中国の歴史は社会主義現代化建設の時期に入」る。

 かくして「民族団結と祖国統一」への道が拓かれることになるが、民族は平等であるがゆえに少数民族は居住区域での自治が保障される一方、西部大開発によって各民族の共存共栄の道が確保され、「民族団結」が図られる。一国両制によって香港・マカオの「祖国回帰」が実現し両岸交流が「頻繁となり」、「祖国統一」が実現する。「民族団結」と「祖国統一」が、やがて「中華民族の偉大な復興」を導くことになる・・・バラ色の将来だ。

 4千万人近い餓死者をだした大躍進が「失誤」で、ほぼ同数の犠牲者を生んだ文革は「試行錯誤」でしかない。現在の中国では法体系は全面的に整備され、各民族は平等で共栄の道を歩む――こんなデタラメな歴史を教えられ、ヒネクレた若者しか育ちません。  《QED》