【知道中国 488回】       一〇・十一・念八

    ――タイ中合作鉄道建設・整備第1期工事、2015年完成へ

 タイにまたぞろ政治の季節が訪れようとしている。11月29日、憲法裁判所がアピシット(袁順利)首相が党首を務める最大与党の民主党に政党交付金不正使用ありと認定した場合、憲法の規定により民主党は解党され、首相以下党幹部は5年間の公職停止処分を受けることとなる。つまり1946年に成立し、サリット、タノム=プラパートと続いた軍事独裁政権下でも、南タイを選挙基盤にしてしぶとく生き抜いてきた同党は消滅する。かりに不正使用の嫌疑なしとの判断が下るなら、タクシン(邱達信)支持派が憲法裁判所の判決を不服として大規模な抗議行動を起すことは容易に予想される。つまり今春、バンコクの中心街を大混乱に陥れた「赤シャツ騒動」の再現、となる。

 アピシット政権にとって頭の痛い問題は、これだけではない。同政権誕生に大きく貢献した反タクシン勢力中核の黄シャツ派が動き出したのだ。カンボジアとの国境紛争に対するアピシット政権の姿勢に不満を表明する黄シャツ派の指導者で知られるチャムロン(蘆金河)少将は11月26日、12月11日を期して大抗議集会を開くことを明らかにした。この動きを「赤が去ったら黄が帰ってきた」と、ある現地華字紙は伝えた。黄シャツ陣営の指導者にはタイの「メディア王」とも呼ばれるソンティ(林明達)もいる。

 つまり憲法裁判所がどのような判断を下そうが、12月以降のタイ政局が再び流動化の袋小路に陥る可能性は大ということになるわけだが、チャムロンが発言した同じ26日、将来のタイの進路を左右しかねない発表がなされた。運輸交通省の事務次官が、中国と合作で進める鉄道建設・整備に関する最初の具体的な日程を明らかにしたのだ。

 それによると、明(2011)年1月にはバンコク・ノンカイ間の高速鉄道建設・整備に関する備忘録が完成し、2月に国会に提出され審議の後、3月末までの国会承認を経て、11年中に着工し、15年末の完成を目指すとのこと。

 備忘録の具体的内容だが、たとえば中国側提案による投資金額比率は、タイ国内ではタイと中国で50:50、ラオス領内では中国側が70でラオス側が30。タイ政府としては、さらに財務省と外務省からの専門員を投入し、中国側提案を慎重に検討する動きをみせている。バンコク・ノンカイ間の640キロを標準軌道とすることで、当初計画経費の20%から30%の節約を目指す意向とも報じられているが、それでも1800億バーツの大プロジェクトとなる。運営・管理は、今後のタイ中両国の協議に委ねられることとなるようだ。

 ここで疑問に思うのがタイと中国との間の鉄道建設・整備計画に、なにゆえに第3国のラオスが絡んでくるのかということだが、じつは東北タイの要衝で知られるノンカイとメコン川を挟んだ対岸のラオス首都ヴィエンチャンとは、すでに鉄道で結ばれているのだ。メコン川を跨いでノンカイとヴィエンチャンとを結ぶ鉄道の建設はタイ側主導で行われたわけだが、ヴィエンチャンを起点に中国国内に延伸する鉄道建設については、当然のように中国側主導にならざるをえない。いいかえるならヴィエンチャとノンカイを経て中国国内とバンコクとを結ぶ鉄道建設・整備は、中国側の影響力の下に置かれる可能性は多大。

 バンコク・ノンカイ間に続き、当初計画に沿ってバンコク・ペダンぺサール(マレーシア国境)間も着工となろう。鉄道建設・整備を軸にした中国の南下――歴史的文脈でいいかえるなら“漢族の熱帯への進軍”――はタイ内政の如何にかかわらず着実に進んでいることが明らかになってきた。だから、それは東南アジアにおける我国の生存空間が狭まることを意味しないだろうか。我が国が安穏に構えていられる時代は確実に終焉した。 《QED》