【知道中国 509回】        一一・一・初九

    ――あの時、体ではなく頭を鍛えておくべきだったものを・・・

   『保健按摩』(谷岱峰編著 人民体育出版社 1974年)


 巻頭に置かれた「出版者的説」には、「体育は億万人民の健康につながる一大事である。人民の健康の水準を不断に高めることは、社会主義の革命と建設にとって重要な意義を持つ。毛主席は一貫して人民大衆の健康に深い関心を寄せ、体育運動を重視し、『体育を発展させ、人民の体質を強めよう』、『体操、球技、マラソン、登山、水泳、太極拳など各種スポーツのうちで、およそできる種目は、なんでもやってみることを提唱する』と指摘されている。人民大衆のスポーツを大いに提唱し、人民の体質を強化することは我が国の体育事業の根本的任務である」と、お馴染みの毛沢東礼賛常套句が掲げられているが、出版時期を考えれば納得のいくことだ。

 この本に拠れば、毛沢東と党中央が深い関心を示してきたことで中国の体育事業は極めて大きな発展を遂げ、いよいよ多くの労働者・農民・兵士、さらには青少年が各種のスポーツ活動に参加するようになった。そこで、広範な人民の要望に応ずるため、『怎様練習長跑』『怎様練習游泳』『怎様練習滑冰』『怎様練習唖鈴』『簡化太極拳』など10数種類の「体育鍛煉方法叢書」が出版されるが、そのシリーズの1冊として、この本も編まれている。

 この本では床上八段錦を主に、床下六段功、慢行百歩功などもイラスト入りで判り易くて詳細に解説されている。そこで、物は試しである。床上八段錦の概要を眺めておきたい。

 古代人は健康人の光り輝く肌の色艶を織物の錦に喩え、床上、つまり腰掛けたままで出来る様々な健康法を編み出した。それらを長い年月をかけ工夫・改良し、第一段:干沐浴(体全体)、第二段:鳴天鼓(耳)、第三段:旋眼睛(眼)、第四段:叩歯(歯)、第五段:鼓漱(口)、第六段:搓腰眼(腰)、第七段:搓腹(腹)、第八段:搓脚心(土踏まず)の8種に体系化した。かくて八段錦と呼ぶそうな・・・。

 第一段:干沐浴は、さらに浴手、浴臂、浴頭、浴眼、浴鼻、浴胸、浴腿、浴膝の8種に別れているが、浴には「体を洗う」こと以外に「体を清める」「上下する」という意味もあり、頭の先からつま先まで軽く叩き、摘み、擦り、体全体を軽くマッサージすることで、第二段以下の動作に繋げようとしている。かくして第一段の功能は、「血液の循環が促され、体中の経絡が遅滞なく流れだし、四肢の関節が円滑に動くようになり、胃腸の蠕動運動が助けられる。この運動を終えた後には、体全体が快適さを感じ、気分は爽快になり、効果てきめん」。先ずは至れり尽くせりの功能といえるだろう。

 この本の後半には「保健按摩的功能」の章があり、1962年の初版発行以来の多くの読者から続々と寄せられた感謝の手紙が紹介されている。たとえば山東省の「葉強民同志」は、「私は満70歳です。長年、虚弱体質に悩まされてきましたが、保健按摩を10数年続けた結果、確実に効果が上がっています。・・・誰もが個人の経験を持ち寄り、先人の経験を発展させ応用範囲を広げ広範な人民の健康と社会主義建設に服務しよう」と“模範解答”だ。

 ところで編著者は、多くの読者の支持をえてきたが、「初版以来紹介してきた『兜腎嚢』と『周天休息法』は、人によって副作用をもたらすことが判明したので、広く紹介すべきではないことから、今回の改訂版では削除した」としているが、まさか兜腎嚢や周天休息法が「社会主義の革命と建設」に「副作用」を及ぼしたわけでもあるまいに・・・。  《QED》