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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 527回】 一一・二・仲四
――父母に享けた身体髪膚、これを社会主義の祖国に捧ぐべし
『一晝夜二十四小時』(楊瑞槐訳 上海衛生出版社 1956年)
なんとも奇異な思いに駆られるのが、ソ連でスターリンに対する全面批判が行われて9ヶ月後の56年11月に、この本が出版されていることだ。
この本は「1937年、7月のある爽やかな一日、モスクワは異常なまでの心躍る気分に包まれていた」と書き出される。その日、モスクワ発北極圏経由でアメリカまでの航路120,000キロを63時間25分で無着陸飛行に成功した3人の飛行士を、モスクワの街は挙げて大歓迎した。黄昏が迫る午後6時、3人を乗せたソ連製最高級車は天を衝くような歓呼の声がこだまする赤の広場を疾駆する。クレムリンで待ち構えていたのは、もちろん党と政府の最高幹部を従えたヨシフ・スターリン。独裁者は、3人の手を固く握り熱い抱擁を交わした。
まさにスターリン賛歌と見紛うような情景が綴られているが、この本の狙いはそこにあるわけではない。ソ連の高い科学技術は当然のことながら、「パブロフの高級神経活動学説」(?)に基づく規則正しい生活によって鍛えられた飛行士の心・技・体こそが、祖国に無上の栄光をもたらした。だから、我われも規則正しい生活を送るべきだ、と力説する。
つまり「われわれ社会主義国家は一貫して平和を渇望し平和を築く事業をしっかりと守ってきた。だが資本主義の世界には、なんとしてでも戦争を引き起こそうと虎視眈々と狙っている勢力があることを断固として忘れてはならない。それゆえ、戦争の危機が消え去ることなどない。ソ連の青年は祖国を自らが防衛するという光栄ある責任を全うするための準備を完璧にしておくべきだ。先の偉大なる大祖国防衛戦争における経験が、優秀なるスポーツマンが優れた戦士であることを明らかにしてくれた」。「戦場では、より遠くまで跳躍し、より高く飛び、どのような障害も飛越し、長い距離を速く走るなどの能力が求められる」。祖国防衛のためには規則正しい生活によって心・技・体を鍛え上げなければならない。それというのも、「われわれ社会主義国家は一貫して平和を渇望し平和を築く事業をしっかりと守ってきた。だが、資本主義の世界には、なんとしてでも戦争を引き起こそうと虎視眈々と狙っている勢力がある」から、ということになる。
いいかえるなら、ソ連の社会主義は優れているし平和を守ってきた。だが、劣った資本主義の世界が戦争を仕掛け、平和が侵される可能性は常に存在する。だからこそ社会主義の祖国を守るためには24時間を規則正しく送り、自らを鍛錬し健康を守らなければならない。「生活制度――凡ての疾病から身を守る最も基本的であると同時に主要な手段――は任務遂行の上での基盤であり、組織性を涵養するだけでなく、社会秩序の基礎である」。かくて読者に、「規律と自制の生活」を求める。
たとえば中学生の日課は、起床=7:00~7:15、体操・身体摩擦・洗面・身の回りの整頓=7:15~7:45、朝食=7:45~8:00、登校=8:00~8:20、学習(教室及び社会)=8:20~14:30、下校=14:30~15:00、昼食=15:00~15:30、戸外での遊び=15:30~17:00、予習=17:00~20:00、夕食と自由時間=20:00~21:00、就寝準備=21:30~22:00、睡眠=22:00~7:00
このような規律正しいソ連式24時間こそが、「党と政府が常に示す無限の恩愛に愧じることなき人生」を送る基盤・・・だとさ。おやまあ、それは、結構なことです。《QED》
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