樋泉克夫教授コラム

~川柳~ 
《賺多銭 拼命投資 去到底》⇒《カネ持ちの 強欲止まる ところなし》

  【知道中国 546回】            一一・三・念四
  
     ――革命、革革命、革革革命・・・行き着く先は、また独裁

     『中国民主革命万歳』(馬懐聞 天地書局 2006年)

 「幻想政治小説」と銘打たれた物語は、共産党建党百周年に当たる2021年の10月1日、天安門広場における華やかな国慶節祝賀パレードで幕が開く。

 中国の経済力はGDP換算で世界の3割に逼る。2000年代初期に中国人は世界で年間に生産されるブタの半分近くを消費していたというから、経済力は中国人の胃袋の貪欲さに近づいたようだ。世界最強・最新鋭の軍隊は陸・海・空に加え海底も宇宙も制し、没落一途のアメリカに代わって“世界の警察”として国際秩序の維持に絶対の力を発揮する。それも40余年前の1978年末、対外開放に踏み切り市場経済を大胆に導入しながらも、当時の最高実力者・鄧小平が共産党一党独裁という大原則を断固として譲らなかったからであり、一党独裁が党是・国是であればこそ社会主義市場経済の爆発的発展も実現したわけだ。

 人民元と軍事力にモノをいわせ世界の富を独占し、16億の中国人が斉しく世界最高水準の生活を享受しているにも関わらず、天安門広場での国慶節パレードは依然として旧来のまま。時代遅れだから廃止せよとの声も強いが、共産党幹部は伝統美に固執したいらしい。

 この日正午、天安門楼上に立つ党総書記を筆頭とする共産党幹部の前を、最新ハイテク装備で固めた特殊部隊を先頭とする解放軍精鋭部隊の軍事パレードが始まるはずだった。だが12時半を過ぎても解放軍が現れる気配はない。1時を回り楼上の幹部がソワソワしはじめる頃、解放軍兵士を先頭に数限りない市民が広場に通ずる長安街の東西から雲霞の如く雪崩れ込んできた。武器の代わりに彼らの手に握られていたプラカードには、「人民よ、立って共産党の鉄鎖を断ち切れ!」「共産党主義者=ファシストを墓場に!」と。

 その情景を世界に実況中継するのは、英字名は同じだが中国の富豪に買収されたことで中国新聞網(チャイナ・ニュース・ネットワーク)と名前を換えたCNN。TVカメラは、何事もなかったように振舞う党総書記の目に浮かんだ恐怖の色を、的確に捉えていた。

 思い起こせば1989年6月、解放軍の戦車にひき殺される仲間の魂に、オレは復讐を誓った。1911年の辛亥革命が軍隊内に扶植された革命派=新軍によってもたらされた歴史に学び、共産党の暴力装置たる解放軍に仲間を募り解体を目指し、今日のこの日を待った。

 89年から30数年。オレは人生を解放軍工作に賭けた。解放軍内に民主派分子を増殖させた結果、共産党は遂に崩壊する。新しい政治体制を構築するために全国各地に誕生した民主勢力が北京に集い、多党制・民主政体の中華民主共和国を建国する運びとなった。各勢力代表を集め民主制憲議会が開いたが、甲論乙駁の毎日で論議は空転。時間は浪費するばかり。1年半過ぎても結論が導きだせない。経済は国政の停滞のままに急カーブを描いて弱体化し、急迫してきた日本に追い抜かれる始末だ。不況に苦しむ国民的不満を背景に、中国民主党代表であるオレは解放軍残党を仲間に引き入れてクーデターを断行。有象無象のような政治勢力を蹴散らし、国民の圧倒的支持をえて徹底した民主集中制を断行する。

 2023年10月1日、オレは天安門の楼上に立ち、広場を埋め尽くした人民の歓呼の声に応えた。天を突く「民主党代表万歳、代表万々歳」の声にオレの心は酔い痴れるばかりだ。

 ――「おい1921号、起きろ。メシだ」の声で現実に・・・。時は2009年春。所は秦城監獄。天安門事件以来20年、裁判を受けることなくオレはここに閉じ込められていたのだ。

 共産党解体は民主化を意味しない。新たな独裁を導くだけだ。中国で数千年続いた牢固たる政治文化から抜け出ることの難しさを、この小説は訴える。艱難辛苦、トホホ。《QED》