樋泉克夫教授コラム

~川柳~ 
《快要来 不是富強 是混乱》⇒《そのうちに さしかかります 下り坂》

  【知道中国 555回】            一一・四・仲一
  
      ――詩琳通公主、またまた中国訪問へ

 詩琳通公主、つまりタイで国王に次いで国民的敬愛を集めているといわれるシリントーン王女が4月初旬、またまた中国へ。確か1981年の初訪中から数えてみると31回目。ほぼ1年に1回。中国ビジネスに携わっているならともかく、なんとも多い回数だ。

 4月6日午後、北京の人民大会堂で会見した全国人民代表大会委員長の呉邦国は、「王女は中タイ両国友好の使者であり、両国人民の相互理解と伝統的友誼を促進すべく、両国の教育・文化・科学技術における実務面での合作に積極的貢献をなさっている」と。一方、王女は「中国の人々に心からなる懐いを抱いております。中国語、文化、芸術を熱く念い、自らの努力を通して両国の友好と相互理解を促進するため多くの貢献を致したく思います。タイ国王と王室関係者は終始一貫して両国の友好事業に力を尽くしております」と応えた。

 翌7日、王女は20名ほどの随員を率い北京の東北に位置する河北省秦皇島市を訪問し、朱浩文市長の案内で市の内外を見学している。同地は河北省北端に位置する重要港で、北郊には万里の長城の東端の守りを固める山海関、南郊には党幹部の別荘が並ぶ高級リゾートの北戴河がある。同じ7日、北京の釣魚台国賓館で面会した際、全国人民代表大会副委員長の陳至立は「中タイ両国は同じ家族のように親しみを抱き、好き隣人、好き友人、好き兄弟であり、近年、両国は共に健全な発展を遂げ、双方要路の訪問は数を重ね、政治的相互信頼は深まり、各方面での相互合作は多大な成果を挙げております。王女は中国人民の旧い友人であり、長期に渡って両国友好に力を注ぎ、様々な方途を通じタイ人民に中国の発展と変化を紹介する労を惜しまず、人文、教育、社会などの領域で数限りない有益な貢献をなし、タイ人民の中国に対する理解と友誼を増進すべく、この上ない貢献をなして参りました」と賛辞を送ったのだが、これが単なる外交辞令とはいえないのだ。

 じつは王女は10年前の2001年2月中旬から1ヶ月ほど北京大学に短期語学留学をしたことがある。それ以前からも中国語を勉強していたと伝えられていたが、東南アジア大陸部のみならずASEANの要ともいえるタイの王女の留学である。中国側が最大級の関心を払い、最上級の“接遇”をしたことは容易に想像できるはずだ。

 以来、王女は個人的に両国の教育交流の基礎作りにも力を尽くしてきた。たとえば個人的に奨学金を与えタイ学生の北京大学留学を支援し、その数は最近の5年間で350人ほど。06年には北京大学の支援をえてチュラロンコン大学に孔子学院を設立し、09年からは王宮と移民局に設置の中国語学習班から毎年各50人ほどを選び北京大学へ短期語学研修に送り込む。このような王女の動きに応え、北京大学は05年に王女の50歳の誕生日を記念して詩琳通科技文化交流中心を設立。もちろん王女を理事会名誉主席に据えている。

 彼女は今次訪中において中国語で「数年来、こんな経験をしております。多くの国を訪問すれば中国人に出会い、中国語を話す機会を持つことができるのです」と語ったとのことだが、北京のタイ王女対策は着実に成果を挙げていることだろう。だが、老練な外交手法で国際政治を生き抜いてきたタイである。北京ペースのままで終始するとは思えない。

 8日には四川省へ。成都、四川両大学は名誉博士号を授与すると同時に、「詩琳通――泰国語言文化課堂」を設立した。じつは王女の四川入りは7回目。四川大地震被災地慰問以来とのことだから3年ぶりとなる。虚々実々の外交ゲームが展開されているのだ。《QED》