樋泉克夫教授コラム

~川柳~ 
《抓特務 革命戦友 腐敗案》⇒《鯛のごと 党頭から 腐るもの》
 *52年2月、建国以来初の汚職党幹部2人摘発。不正着服総額は150億元超とも

  【知道中国 589回】            一一・六・仲八

     ――確かにリクツは、後からワンサカと付いて来る

     『社会主義市場経済十大問題』(張・張・蘆主編 成都科技大学出版社 1993年)

 毛沢東が目指した社会主義が艱難辛苦・刻苦勉励型と形容するなら、鄧小平のそれは出たとこ勝負の勝手気儘型といえるだろう。いわば、どうしようもなく身勝手で自己中でオレ様の中国人を、毛沢東は徹底して締めつけて「社会主義的聖人君子」に鍛えあげようとした。だから犠牲も多かった。これに対し鄧小平は、毛沢東が作った中国は張りぼて貧乏大国でポンコツに過ぎる。やはり中国を強く豊かにするには、“利”を以って超現実的な中国人を動かすのがいい。ならば資本主義を導入するしかない。だが共産党の一党独裁は断固として譲れない。それならわが国は、社会主義と資本主義を無理矢理にでもくっつけて社会主義市場経済で行こう。これが「中国の特色を有す社会主義」の真実というものだ。

 費用対効果を考えれば、鄧小平式社会主義のほうが中国と中国人にとってはイイに決まっている。たとえ地球と世界の人々にどれほどのストレスを与えたとしても、である。

 中国の特色を有す社会主義が党の大方針と定められるや、「国内の著述家は沸き立ち、社会主義市場経済の発展に関する大量の意見が書かれ、社会主義市場経済に関する大量の書物が出版された」。この本も、この種の本の1つだが、「主旨と発想、論述の構成、分析と論証は創造的で斬新であり、類書とは違った独特の特色を持つ」と、自画自賛してみせたうえで、「市場には、社会主義なのか資本主義なのかなどといった問題はありえない。資本主義が市場経済の発展に寄与した少なからざる経験は我われにとって鑑となりうるものであり、その点を我われは真剣に学び研究しなければならない。社会主義市場経済と資本主義市場経済には異なる点もあれば同じ点もある。たとえば市場の運営と管理、大局的な観点からの調整、セイフティーネットなどの面では、両者は基本的には同じだ。資本主義におけるこういった側面の経験を真剣に研究し吸収することは、我われが社会主義市場経済体制を建設し、社会主義市場経済を発展させ、わが国社会主義経済の発展には欠くべからざることである」と主張する。

 かくして社会主義市場経済理論はマルクス主義計画経済理論の新たなる発展であり、市場経済を建設しその発展を促すことは社会主義の初級段階における主要な任務であり、生産力の高度な発展のためには市場経済は必要不可欠となる。社会主義市場経済においては、社会主義への路線、人民民主独裁、党の指導、マルクス主義と毛沢東思想を堅持しなければならない。改革こそが社会主義市場経済に向かう唯一の道であり、社会主義市場経済を発展させることは必ずや社会主義政治建設を導く。社会主義市場経済を実現することで、生産力の発展、工業化の実現、生産の商品化・社会化・現代化を現実のものとする歴史的課題を達成させる。社会主義市場経済の建設は、新しい時代と国際環境における国防建設に決定的な影響を与え、国防建設はまた社会主義市場経済の要求に即応しなければならない。社会主義市場経済はわが国の国際関係に変革を逼るものであり、時期を捉え対外開放を拡大し、経済規模の拡大に努めなければならない。

 このように、なにやらワケの判らない身勝手千万なリクツを重ねた後、「中国の特色を有す社会主義理論を確実に用いて全党を武装し、執政と指導の水準を不断に高めることが、社会主義市場経済の下での執政党建設の主要な内容である」と結ぶ。

 要するに「中国の特色を有す社会主義」とは、共産党による超厳格独裁体制下でのカネ儲け至上主義だということを、この本が問わず語りに明らかにしてくれる。《QED》