樋泉克夫教授コラム

~川柳~ 
《腐敗案 執行槍決 来照相》⇒《この姿 写しておけよ 後のため》
*銃殺刑執行直前、不正幹部は刑場で「後々の教育用に、この姿を写しておけ!」と。だが、今日に到るも幹部の不正は一向に止まない。

  【知道中国 590回】            一一・六・念

     ――もう少しマジメに考えたら・・・どうでしょう

     『上海地理浅話』(尚・蘇・施編 上海人民出版社 1974年)
  
 四人組の全盛期、彼らの拠点である上海について、しかも彼らの宣伝中枢である上海人民出版社での出版だ。さぞやヘリクツ満載の本と思いきや、そこは上海の地理についての解説書だけあって比較的抑制の効いた説明が続くが、やはり所々で革命的熱情が迸るのは止むを得ない。ゴ愛嬌というものだ。

 「百数十年来、帝国主義の強盗とその走狗により、上海の港と黄浦江(上海を象徴する河川)は拭い難い血の涙を流し、癒すことのできない深い傷を数限り刻まざるをえなかった。だが、侵略があれば反抗があり、圧迫があれば闘争がある。黄浦江の荒れ狂う波濤は、戦闘への雄叫びだった。上海人民は帝国主義が侵入したその日から、強固なる反帝闘争に決起した。中国共産党が誕生して後、党の正しい路線の指導の下で、上海の労働者階級と人民大衆は反帝、反封建、反官僚資本主義革命運動をさらに生き生きと前進させ、中国革命史上に限りなく輝かしい一章を書き加えた」。

 かくして「一九四九年四月、偉大な領袖毛主席と中国共産党の指導の下、上海は解放されたのだ! 嘆き苦しみ抜いた黄浦江は遂に人民の懐に還ってきた。黒い雲をサッと払い、真っ赤な太陽が現れた。党の放つ耀きが黄浦江に新しい息吹を与える。毛主席の革命路線に導かれ、上海の港は(中略)、百数十年来の帝国主義が中国を侵略するための主要基地から、社会主義革命と建設に奉仕する新たな物流ルートのハブに改造・建設された」という。

 その証拠だが、たとえば1971年を例に取ると、上海港の1ヶ月の取り扱い量は建国当初の1年の1.5倍、対外貿易量は51年の二百数十倍となるそうだ。
いやはや凄まじいかぎりの発展振りだが、現在と同じように当時も上海は地盤沈下に悩まされていた。であればこそ、この本でも地盤沈下について比較的多くの紙幅を割いて解説している。先ず「なぜ上海の地盤は沈下するのか?」と問題を提起した後、「この問題を前にして2つの世界観と方法論、つまり唯物論的反映論と唯心論的先験論の激しい闘争がある」と恭しくのたまう。

 地盤沈下と世界観にどのような結びつきがあるのかは判らないが、この本に拠れば、とにかくあるらしい。そこで、どのようにあるのかというと、従来からいわれている海面の上昇、近くの沈下、高層建築の重圧、車両による振動、地下からの土砂採取、河川の浚渫、天然ガス採掘、地下水の大量くみ上げなどがあるが、これらの大部分は唯心論的先験論であり、事態の本質を捉えたものではない。唯物論的反映論に立つなら、地下からの大量取水が地盤沈下の主要な原因となる。地下水は石油や石炭と同じように重要な地下資源であり、これを利用しないわけには行かない。そこで「毛主席哲学思想」に基づいて地下水利用と地盤沈下の間の矛盾を分析し、地下に人為的に水を送り込み、水を含む地下層を調整する一方、地下水の利用方法などを制御すれば地盤沈下は収拾に向かう・・・らしい。

 かくして「上海は飛躍的な発展の過程にある。取り組むべき任務は余りにも多く、余りにも重い。さらなる努力を重ね作戦を継続しなければならない。望見すれば、前途は錦のように耀いている。毛主席のプロレタリア革命路線の導きの下、前進だ、上海!」となる。

 ところで現在もなお地盤沈下は止まらない。唯物論的反映論も役に立たないナ。《QED》