樋泉克夫教授コラム

~川柳~ 
《隣教隣 断子絶孫 費考通》⇒《毛思想 刃向かう輩は 潰すのみ》
*53年、著名な社会学者・費孝通の懇願にもかかわらず、全国の大学から社会学講座は消滅

  【知道中国 594回】            一一・六・念八

     ――歌と同じで、言葉も世につれ

      『中国当代流行語 全覧』(夏中華編 学林出版社 2007年)
  
 これは読んで字の如く、最近の流行語を集めた辞書である。中国人は自らの国を「華夏」とも呼ぶ。元々は黄河中流域の黄土高原一帯、つまり漢民族が「中原」と名付け自らの故地とする一帯を指していたが、後に中国全体の別称とした。華やかで夏のように盛んと・・・ゴ勝手にどうぞだが、編者の名前が夏中華というのだから、何ともカントもゴ愛嬌。

 巻頭の「序」に依れば、この辞書に収録された3千項目余の流行語は「基本的には改革・開放の『新時代』以降の中国の大地で流行したことばや言い回し」であり、この辞書作成は第十次五ヶ年計画にのうちの「流行語追跡研究(YB105-63C)」とか。ならば、この辞書制作は国家プロジェクトの一環ということになる。

 なにはさておき面白そうな流行語を気の向くままに拾い、説明文をそのまま訳しておく。

 ■「買文凴(偽卒業証書を買う)」=偽の卒業証書を売買すること。これは社会における一種の好ましからざる現象である。例文「最近は、偽卒業証書の売買ばかりでなく、少数だが偽卒業証書を乱発する学校が出現したので、政府部門でも学歴詐称者がみられるようになった」

 ■「没有愛情的婚姻是不幸的、而没有房子的婚姻則更不幸的(愛情のない結婚は不幸だが、住居のない結婚はもっと不幸だ)」=住宅獲得が困難な社会の現実と人々の住宅に対する渇望との矛盾。何かを欲しいが得られない虚しさを形容する。

 ■「品牌、品牌、還是品牌(ブランド、ブランド、やっぱりブランドだ)」=品牌(ブランド)の重要性を強調する商業用語。重ねて使うことで語感を強調し、人々の関心を喚起する。流行後、一種の定型となり、たとえば「土地、土地、やっぱり土地だ」のように物事の重要性の説明に使われるようになった。例文「現下の情況で最も重要な突破口は『ブランド、ブランド、やっぱりブランドだ』」

 ■「賭球(ボールを賭ける)」=サッカーの試合結果を賭けの対象とする違法行為を指す。 例文「現在、中国のサッカーは疑いもなく低調だ。客足遠退き、市場は悪化し、影響力は低下する。八百長、賭球、試合放棄、薬物使用などのスキャンダルは、中国サッカーのイメージは歴史的に最低レベルまで落とした」

 ■「酒場就是戦場、酒風就是作風、酒量就是胆量、酒瓶就是水平(宴会は戦場で呑みっぷりが仕事っぷり。酒量が肝っ玉の太さで空けた酒瓶の数が仕事の評価基準)」=公費や公用で呑み食いする不正な振る舞いを風刺している。例文「多くの職場が『請吃請喝(飲食接待漬け)』を企業戦略の重点とし、『酒場就酒場、酒風就是作風、酒量就是胆量、酒瓶就是水平』だと納得している」(注:本来、「酒風」は「多汗症」を指すが、敢えて「呑みっぷり」と訳しておいた)

 まだまだ興味深い流行語は山ほどあるが、ここに示した数例からだけでも、中国社会の
現状が浮かび上がってくるだろう。

 確かに中国は激変した。だが、「毛沢東思想万歳、万歳、万々歳」と叫んでいた時代の代表的流行語の「自力更生」「為人民服務」「造反有理」「革命無罪」などと較べると、こっちの方が断然人間臭くてステキだ。それにしても流石に文字の国である。「酒場就是戦場、酒風就是作風、酒量就是胆量、酒瓶就是水平」とは・・・お~い山田ク~ン、座布団四枚。《QED》