樋泉克夫教授コラム

~川柳~ 
《快要来 這是為何 反右派》⇒《キサマたち なにが不服で 党批判》
*57年、毛沢東は共産党批判者を「右派」と断定し、徹底的は粛清を断行

  【知道中国 607回】            一一・七・念四

      ――“偉大な中華民族”の愛国主義賛歌の横車・・・ウンザリ

      『愛国主義概論』(伍国基主編 曁南大学出版社 1998年)

 冒頭に置かれた「序」では、「愛国主義は中華民族を結集させる核心であり、(中華民族を形成する)各民族にとっての共同の精神的支柱であり、膨大な人民を奮起させ、(中華民族以外からの)軽蔑を弾き飛ばす旗印であり、人民を督励して祖国の建設に立ち向かわせる強力な原動力である。愛国主義の伝統は、異邦に住みながら心は祖国と分かち難く結びついている海外華僑にとって、心の底により強く根を張っている」と解説した後、①愛国主義の情感、②海外からの華人留学生の教育を担当する愛国主義教育の特殊性、③大学生に対する愛国主義教育の方向性の3点を突出させていると、この本の特徴を強調している。

 この本は、海外から中国に留学する華僑・華人の子弟を教育し、リッパで戦闘的な愛国主義者に改造するための教科書らしい。ということはグータラな華僑・華人子弟であろうとも、“祖国の内懐”に抱かれ、この本でマジメに鍛え上げさえすれば、リッパな愛国主義者になれます、ということか。そこで、モノは試しである。内容を概観してみよう。

 先ず「愛国主義は民族の魂」であるとし、であればこそ愛国主義は「祖国と民族に対する懐いの集中的表現」であり、「生きがいの目標」であり、「祖国と民族意識にとっての魂」である。民族性と階級性と時代性を備える愛国主義だが、「人民を強固に結びつける」「人民を教育し国を成り立たせる」「中華を振興させる」という3つの特性を持っている。

 中華民族にとっての「国魂の揺籃」の地である中華の大地は広大で稔り豊かであり、天然資源に恵まれ、そこには「中華民族にとっての母なる大河」である黄河と長江が悠然と滔々と流れ、千変万化する山々が聳え立っている。万里の長城は「中華民族の団結と統一の象徴」であり、シルクロードは「中華文明の煌びやかで艶やかな錦の帯」だ。往古の春秋戦国時代以来、中華の大地に生きてきた中華民族は「多元一体化」の形で一貫して融合している。そのような背景があればこそ、社会と政治の進歩を推し進め、民族が共同して経済と文化を前進させてきた。民族の融合こそが愛国主義の源泉であり、中華民族にとっての巨大な精神的支柱である。中華の伝統文化は優れた史学に支えられ、善と美とを融合させた芸術を育み、実用を重んずると共に「異」ではなく「和」を尊ぶ。「自立・自信・自尊」を内実とする愛国主義精神は祖国統一の基礎である。

 中国の特色を持つ社会主義は中華を救い盛り立てるためには必然的な選択であり、いまという時代の特徴は中華を熱愛することであり、であればこそ愛国の熱情を報国の域にまで昇華させなければならない。紆余曲折の歩みを経た後、経済・科学技術・教育の現代化を進めてきたが、なにを差し置いても国防の近代化こそが大前提だ。

 海外に住まう華僑・華人の愛国主義の伝統は連綿と続き、尽きることのない故土への賛仰の懐いこそが、それを支えている。辛亥革命、抗日戦争、そして建国の大事業への彼らの貢献は、讃えても讃え足りない。

 大学生こそが愛国の伝統を継承し発展させる主体であり、であればこそ「崇高なる品格」を涵養し、「信仰の柱」である愛国主義を「神聖なる使命」と心得るべきだ。

 ――以上が30万字余を使っての激越なアジテーションの要約だが、ここまで徹底して叩き込まれたらグータラ野郎もシャキッと熱烈な中華愛国小僧にならざるをえないだろう。だが、こうまで強弁しなければならないところにこそ、中華愛国主義の胡散臭さがあろうというもの。しょせん中華民族主義とは、漢族至上主義の別の表現にすぎないのだ。《QED》