樋泉克夫教授コラム

~川柳~
《最要緊 全党動手 増量法》⇒《ともかくも 空腹抑える 算段を》
*1960年8月10日、中共中央は逼迫する食糧事情を前に、全党に対し食糧の計画的使用と徹底節約 を厳命するしかなかった。

  【知道中国 623回】            一一・八・念二

      ――教育効果、ゼロ・・・はい、残念でした

      『奴隷們創造了歴史』(《奴隷們創造了歴史》編写組編 上海人民出版社 1977年)

 冒頭に置かれた「編者的話」は、「少年児童はプロレタリア階級の革命事業における後継者であり、幼い頃に革命の先人から革命の紅旗を継承し、党と毛主席の指導されるプロレタリア革命路線に沿ってプロレタリア階級の独裁を強固にし、共産主義の理想を実現するため、『よりよく学び』『日々、向上』しなければならない。革命を立派に引き継ぐためには、革命を進めた先人のように、幼い頃からマルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想を懸命に学び、革命理論で行動を律し、思想を武装しなければならない」と、この本を出版した目的を高らかと掲げている。

 表紙いっぱいに、甲冑を身に着け右手に武器を持った古代ローマの戦士と思しき人物が描かれているが、この本が「紀元前73年に古代ローマの地で爆発し、世界を震撼させた奴隷による大蜂起」を指導したと讃えるスパルタクスだろう。

 「奴隷社会は階級対立と人が人を搾取する制度を存在させた最初の社会であり、原始社会の内側で生まれ発展した」と書き出すこの本は、中国を中心にエジプト、バビロニア、ギリシャ、ローマなど東西の古代社会の分析を通じ、奴隷によって歴史が創造されたことを解き明かそうとする。
「奴隷社会においては、大量の奴隷を労働に使うことで大量生産を組織することが可能だった。膨大な数の奴隷は大規模な生産労働において簡単な分業を行うことで、社会の生産力をより高い段階に引き上げた。まさに奴隷たちに課せられた過酷な労働こそが、奴隷社会の発達した農業、牧畜、手工業を創造し、輝かしい古代文化を築きあげ、人類に文明時代をもたらした」。また奴隷は「天文暦法、医学、冶金、数学、建築、造船、航海術などに輝ける成果をみせ、自らの血と汗によって、人類社会に大きく貢献し、歴史を前進させた」そうだ。

 国家は奴隷を所有する階級が自らの権益を守るために考え出した制度であり、軍隊、警察、刑法、法廷、監獄などは彼らの独裁を守るための重要な装置である。また「神権と『天命』思想は、奴隷所有階級の中の貴族が精神的に奴隷を酷使し、人民に害毒を流し、自らの階級統治を維持するための重要な道具」でもあった。

 「国家の凶暴な装置の迫害の下、悲惨な生活を余儀なくされた」奴隷は自らを解放すべく決起したが、彼らが望んだ原始時代のように平等な氏族関係への回帰は不可能であり、「奴隷階級自らの統治を打ち立てることはできず、奴隷社会内部で新たな封建制に基づく生産関係が胎動しつつあり、やがて農民と地主という2つの新興階級が誕生した」。封建社会も、その後の資本主義社会も共に「奴隷制を基礎に発展し、階級対立と人が人を搾取するという点では、奴隷制度と完全に一致している。資本主義社会において労働者は資本家に雇われた奴隷であり、階級の圧迫と搾取が存在するかぎり、この上なく野蛮で最も旧い奴隷制度の痕跡は消し去ることはできない」。だから「階級と人が人を搾取する制度を消滅させてこそ、奴隷制の残滓は徹底して、綺麗サッパリと消し去ることができる」そうだ。

 ――かく教育され「幼い頃からマルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想を懸命に学び、革命理論で行動を律し、思想を武装し」たはずの「少年児童」も、いまや50歳前後だろうか。金満中国の片隅で、「革命を立派に引き継」いでいるはずも・・・ないだろうな。《QED》