樋泉克夫教授コラム
~川柳~
《人造肉 樹皮成粉 代食品》⇒《脳汁を 絞り尽くすも 樹皮までも》
*トウモロコシの芯を乾燥させて挽いた粉、トウモロコシの皮を煮て漉して作った澱粉、木の皮を挽いた粉などなど・・・哀しくも、これらを代食品と呼んだ。
【知道中国 625回】 一一・八・念六
――百年経っても河は濁ったまま、それとも百年前に戻ったのか・・・
『黒幕大観』(駱賓生編・斉仁改写 春秋出版社 1989年)
この本は1919年に上海で出版された『中国黒幕大観』の復刻版である。副題に「旧中国軍、政、匪、伶、娼之怪状」とあるように、旧い中国社会の裏側の奇妙奇天烈な相貌を活写したもの。「生き生きとして詳しく真の資料を大量に提供し、多くの読者が暗く腐敗していた旧中国に対する理解と認識を深めると共に真善美と嘘悪醜を弁別する能力を高め、この本から教訓と啓発を得られんことを願う」というのが、出版者の弁だ。
なにはともあれ、抱腹絶倒モノの記事を2つ紹介しておきたい。
■政界=某幹部の執務室が火事になり、百余万元の紙幣が燃えてしまった。内部の消息筋の話だと、彼がいちばん寵愛している妾が、あろうことか幹部が信頼する部下と浮気を。当日は給料日で執務室に大金が準備されていたが、まだ支給はされていなかった。そこで妾と部下は予め示し合わせておいて、給料をゴッソリと盗み出したわけだ。
事件の真相が漏れるのを恐れた幹部は、妾は焼死したとウソの証言をするしかなかった。ところで肝心の2人だが、大金を手にアメリカに逃亡してしまったのである。
■官界=某は県知事に就任したものの、なにやら物入りが多くて懐が寂しい。ある時、知事室に河川工事のベテラン担当者がソッとやって来て、「知事、秋の洪水が近づいておりますが・・・」と小声で。「承知している。すでに昨日、関係部局に24時間の厳重監視の指示を出したところであり、準備万端整っている」と。すると、「そんなことじゃありません」。「ならば、どんな要件だ」
すると担当者は知事に近づいて耳元で「ダンナ、河川行政のカギは春秋2度の洪水にあることをご存知のことと。大洪水で堤防は必ず決壊致します。決壊すれば堤防の補修・補強の名目で莫大な予算が・・・。いまの給料のままでは、干上がってしまいませんか」。この話に心を動かされた知事が「決壊しなかったら・・・」と口にすると、「だから私が伺った次第です。昔から黄河の決壊は凡て洪水が起こしたってわけじゃありませんゼ。工事関係者が事前に堤防に細工をしておきますからして・・・」。
「それでは国法に違反し、人民の生命財産を損なうではないか」と言い返すと、担当者はニヤニヤ笑いながら「ダンナはご存知ない。苦労して役人になるのも、ただひたすらにカネのため。大規模決壊が不承知なら、小規模でも結構、けっこう。懐にはタンマリと」。そこで「そうか。そうなのか。ならば詳しく相談しよう」ということで話が纏まる。やがて担当者は知事の許を辞す。
数日後、大洪水が発生。果たせるかな黄河の堤防は大規模に決壊した。
「各国軍人は凡て国家を防衛するが、我が国の軍人は議会を包囲し、議員を脅して既得権を守ろうとする」などといった記述もみられるが、想像を絶する奇々怪々な話が400頁超の本にギッシリと書き留められている。だから読者としては「暗く腐敗していた旧中国への理解と認識を深めると共に真善美と嘘悪醜を弁別する能力を高め」ることができるし、「教訓と啓発を得ら」れもする。中国人を理解するうえでは、確かに大いに役立つ。
この本に納められた出来事は凡て20世紀初頭に起こっているが、この2例からも類推できるように、百年後の現在、中国各地で起こった事件といわれても不思議ではないほどに“今日的”である。社会主義革命とは何だったのか・・・考えるだけ野暮なようだ。《QED》