樋泉克夫教授コラム

川柳>>>>>>>>>>>
《代食品 越来越餓 不出声》⇒《ひもじさに 精根尽きて 声もでず》
*飢餓情況は愈々深刻化。幽鬼の如き人民・・・待っているのは餓死。

  【知道中国 627回】            一一・八・念八

     ――まるで天にツバをしているようですが・・・

     『形式邏輯』(復旦大学哲学系邏輯教研組編 上海人民出版社 1973年)

 先ず、「『邏輯』とい言葉の語源はギリシャ語のlogosであり、本来的には思想、思惟、理性、言語を意味する。人々は日常的に邏輯という単語を用いるが、その意味するところは多岐にわたる」としながら、「あらゆる科学は凡て邏輯を用いる」とのレーニンの発言を引用し、「それゆえに邏輯を学ばねばならない」と主張する。この辺が、この本出版の目的だろう。そういえば文革では屁理屈が散々猛威を振るったが、あれが彼らの邏輯だったのか。

 三段論法、仮定法、帰納法などについて詳しく解説されている。ここで興味深いのが解説として用意されている例文だろう。たとえば、

――三段論法
 ■一切の革命家は真剣に本を読み学習し、マルクス主義に精通しなければならない⇒私は革命家である⇒故に私は真剣に本を読み学習し、マルクス主義に精通しなければならない
 ■あらゆる修正主義者はマルクス主義の敵である⇒林彪は修正主義分子である⇒故に林彪はマルクス主義の敵である
 ■あらゆる革命家はプロレタリア革命の精神を具有している⇒プロレタリア革命の精神を具有している凡ての革命家は腰抜けではない⇒故に凡ての腰抜けは革命家ではない
 ■社会主義の所有制はなによりも優れている。それというのも、生産資料(生産にかんする手段・材料・技術など)の私有制を消滅させ、根本的に搾取を除いているからだ⇒人民公社は社会主義の所有制である。それというのも、集団経済組織であり労働に応じた配分という原則を実行しているからだ⇒故に人民公社はなによりも優れている

――仮定法
 ■彼が革命青年であるなら、労働者・農民と結びついた路線を必ずや歩んでいる⇒彼は革命青年ではない⇒故に彼は労働者・農民と結びついた路線を歩くことはない
 ■現在のソ連が社会主義の国家であったなら、国内でファシズム専制政治を実行するわけがない⇒現在のソ連は国外的には拡張主義を、国内的にはファシズム専制政治を実行している⇒故に現在のソ連は断固として社会主義国家ではない。社会帝国主義である

――帰納法
 ■あらゆる中国共産党員はプロレタリア階級の革命家である⇒彼は中国共産党員である⇒故に彼はプロレタリア階級の革命家である
この本が出版されてから現在までの40年余の中国は、驚嘆などといったことばでは形容できないほどの“革命的様変わり”をみせる。それにしても驚天動地のドンデン返し。

 革命を掲げる故に党員は「真剣に本を読み学習し、マルクス主義に精通しなければならない」はずがカネ儲けの道に精通し、「プロレタリア革命の精神を具有してい」ないから「腰抜け」であり、「なによりも優れている」はずの人民公社は痕跡を残さないほどに解体され、「80後」(80年代生まれ)や「90後」(90年代生まれ)で総称される若者世代は「革命青年」ではないから「労働者・農民と結びついた路線を歩くことはない」。現在の中国は「国外的には拡張主義を、国内的にはファシズム専制政治を実行している」から、「断固として社会主義国家ではない。社会帝国主義である」・・・なんとも絶妙な邏輯ではある。《QED》