樋泉克夫教授コラム

川柳>>>>>>>>>>>
《無規律 包産到戸 責任田》⇒《飢餓線上 最後の力は 欲と得》
*1961年3月、安徽省当局は飢餓問題解決のため農業の集団制度を緩和し限定的ながら私有制実施に踏み切る。自分で働いて得た物は自分の物。「為人民服務」なんてスローガンはクソ喰らえ、である。

  【知道中国 632回】           一一・九・初四

     ――やがて地球全体が“祖国的好山河”に・・・なりかねない

     『祖国的好山河』(上海師範大学地理系 上海人民出版社 1973年)

 「我らが偉大なる祖国はアジア大陸の東南部に屹立し、西に世界最大の大陸である亜欧(ユーラシア)大陸に繋がり、東は世界最大の海洋である太平洋に臨んでいる。祖国の領土は広大無辺であり、祖国の地形は多種多様であり、祖国の天然資源は他に較べようもないほどに豊穣である」。「我ら中華民族の祖先は遥かな古代から、この広大な大地の上で労働し、生存し、仲間を殖やしてきた」。「人民が自らの政権を樹立して以後は、中華民族は歴史の新しい1頁を開いたのだ」。そこで「偉大なる領袖である毛主席は『社会主義は旧社会から労働者と生産資料(手段、資源、技術など)を解放しただけではなく、旧社会では利用することの出来なかった広大な自然界の解放をも成し遂げたのだ』と指摘された」

 かくも昂揚した文章で始まるこの本は、書名である『祖国的好山河(祖国の素晴らしき山河)』を、「山河の大勢」「荘厳なる連山」「高原と盆地」「平原と丘陵」「海洋と島嶼」「数多の河川」「豊富な鉱物資源」の章に分け説明している。

 「海洋と島嶼」の章の「台湾諸島」の項目に見られるように、「魚釣島諸島は台湾本島の東北100海里の大陸棚上に位置し、魚釣島一帯は我が国東海の漁場であり、古来、福建、台湾などの漁民はこの海域で一貫して漁をしてきた。これらの島嶼は、早くも明代に我が国防区域内に置かれ、我が国の台湾省に付属する島嶼である」と、我が尖閣諸島を勝手に自分たちの版図に組み込んでいるようなデタラメで超身勝手な政治的記述もないわけではないが、総じていうなら中国の地理紹介書としては簡明で要を得たものといえるだろう。

 だが出版が文革期、わけても四人組盛時でもある。巻末の「結束語」に至って、それまでの抑え気味の記述は消え、一気に激しいアジテーションに転ずるのは致し方ない。
 ――「20数年前、我らが偉大な領袖である毛主席は全世界に向かって、『全人類の4分の1を占める中国人は、いま立ち上がった』『中国の命運は人民自らの手に握られ、まるで中国は太陽が東から昇るように、自らの輝かしい光で大地を遍く照らし出した』『我らは旧い世界を見事に打ち砕いただけではなく、新しい世界を立派に建設するだろう』と厳かに宣言した。歴史の発展は、毛主席の偉大な予見を雄々しく明らかにした」

 「20数年来、我が国各民族人民は毛主席を首(かしら)とする党中央の周囲に堅く団結し、修正主義路線の破壊と干渉を絶え間なく排除し」、「『断固として中国を改造する』という高邁な気概を胸に天と闘い地と戦い、自然改造闘争においても輝ける戦果を獲得した」「我われは既に偉大なる勝利を得た。だが今後の任務は艱難極まりなく更に偉大である。我が国人民は偉大なる領袖である毛主席の偉大なる領導を持ち、中国共産党という領導の核心を持ち、さらにマルクス・レーニン主義路線を持つがゆえに、断固として敗れることなく向かうところ敵なしである。我らの目的は達成しなければならない。我らの目標は必ずや達成されるのだ」――

 かくして“祖国的好山河“は徹底的にしゃぶり尽くされてしまう。自然は自らのために解放・改造されるべきものという彼らの自然観が、昨今の環境破壊の根底にあるはずだ。このまま「中国共産党という領導の核心を持」つ彼らによる「広大な自然界の解放」や「自然改造闘争」を野放しにすれば、やがて地球全体を“祖国的好山河“と看做し「自然改造闘争」に乗り出すこととなる。これは杞憂ではない。人類が直面する大難題なのだ。《QED》