樋泉克夫教授コラム
川柳>>>>>>>>>>>
《好榜様 貧村大寨 陳永貴》⇒《陳永貴 極貧村で 大ペテン》
*貧しく教育のなかった陳永貴が自力更生の精神で大寨(山西省の極貧寒村)を豊かにしたというウソ・デタラメを、毛沢東は「農業学大寨(農業は大寨に学べ)」を掲げ全国にバラ撒いた。
1963年のことだ。
【知道中国 637回】 一一・九・仲三
――自らの体質の欠陥を知り改めることに努めてみませんか
『解密 中国人的九種体質』(王琦・田原 中国中医薬出版社 2009年)
「作者簡介」に拠れば、王琦(男)は北京中医学院教授で漢方による「体質学創始人」。田原(女)は「中医文化伝播人」で中国中医薬出版社編輯室主任とか。この本は、中医=漢方医療をめぐる学問とメディアによる中国人体質改善にかんするコラボレーションといったところだろうか。
この本を書店で手にした時、先ず目に飛び込んできたのが表紙に大きく書かれた「中国人体質革命を発動しよう」のスローガンである。ここで迂闊にも体質の2文字を気質と見間違えてしまった。中国人のなかにも中国人気質を改めようなどという奇特・殊勝な考えが漸く芽生えてきたかと、早とちり。そこで一も二もなく「多少銭(いくらですか)」。
期待を込めて本文を読み始めたが、アッという間に期待は落胆に。こんな医学啓蒙書を買い込んだ軽率さを悔やんだが、後の祭り。とはいうものの、買ったからには読まねば損ソン。読み進むに従い、これは意外な掘り出し物ではないかという期待が、やがて確信に。
著者は中国人の体質を、①陽虚体質(極度の冷え性。体内の陽気不足)。②陰虚体質(水分不足で肌がカサカサ。睡眠時の手足の冷え)。③気虚体質(外見は軽やかな振る舞いをみせているが、極端に短気)。④痰湿体質(腹が膨れ脂ぎった顔で痰を多く吐く)。⑤湿熱体質(体内の毒が皮膚表面に影響して多く痘痕がみられる)。⑥血瘀体質(体の各所に原因不明の斑点が生じる)。⑦特禀体質(過敏症。たとえば卵、海鮮、牛乳アレルギーなど)。⑧気郁体質(社会に居場所がないと思い込み落ち込む鬱症とその対極の躁)。⑨平和体質(髪の毛を真っ黒に染めあげ、赤ら顔で健康を全面に押し出すことに腐心する。過度の健康志向)の9種に分け、それぞれの特徴と改善法を解説している。
中医学に関して門外漢だから個々の専門用語が指し示す症状や治療法が判然としないことはもちろんだが、あれこれ考えていると、ヒョッとして身体上の体質は民族気質に通ずるのではなかろうかと思うようになってきた。
著者は9種の体質を総合的に解説し治療方法を提示した後、(1)漠然とした恐怖心を取り除け。(2)己の才知を注ぎ自らの心身を愛しめと、「病を治すのは医者の仕事だが、自らの体を知り尽くすのは己がなすべきことだ」とクギをさしながら、体質改善への心構えを語る。
9種の体質とはいうものの、それぞれの体質の持ち主に共通して指摘できる点は、収入、仕事、社会、家庭、健康などの多方面で十二分とはいえないまでも小康状態にあるにもかかわらず、己を失い、己の美点を卑下し、常に何かに突き動かされ、現状に不満で欲望を際限なく拡大させてしまう。将来に対する故なき不安に心身を苛むからこそ、各々が持つ体質が刺激されて発病することになる。なによりも大切なことは自らを取り巻く世界を理解し自分の言葉で語ることであり、それはとりもなおさず自分の身体を知ることに繋がる。他と比較することでも、他を羨むことでも、他を凌ごうとすることでもなく、己の心身を知り尽くすことだ。これを敷衍すれば「吾唯知足(吾、ただ足るを知る)」か。
湧き上がる欲望の侭の行動を抑え、自らを省み、己を知り尽くすことが中国人に特徴的に現れる9種の体質改善に通ずるという教えだ。それがそのまま、金満中国に狂喜乱舞する彼らの民族的病理治癒への道にも繋がっていると思うが・・・やはり無理ですね。《QED》