樋泉克夫教授コラム
川柳>>>>>>>>>>>
《王進喜 井無圧力 軽飄飄》⇒《煽られて 働きすぎて 忘れられ》
*原油掘削やぐら建設に3日3晩も働きづめ、油田事故対策に原油の池に飛び込んで我が身を使ってセメントを撹拌し、5日間も不眠不休で増産に励み・・・石油生産に使命を賭した鉄人は、70年に47歳の若さで死亡。死因は胃ガン。
【知道中国 639回】 一一・九・仲七
――なにからなにまで悪いのは、ペテン師でクソ野郎の林彪だよ
『認真学習毛主席軍事著作』(三聯書店香港分店 1974年)
この本は毛沢東が「我われの軍事原則」といって指し示した「十大軍事原則」を根拠に、林彪が主張した「六個戦術原則」を徹底批判し、林彪に冠せられていた「天才軍事家」「常勝将軍」「非凡な天才」という“化けの皮”を引っ剥がし、やはり「ブルジョワ階級の野心家、陰謀家、反革命両面派、叛徒、売国泥棒」でしかなかったことを明らかにしよういうもの。当時の共産党の理論誌「紅旗」、機関紙「人民日報」に掲載された論文に加え、地方の解放軍支部からの報告を集めている。それだけに、党と解放軍による軍事的側面からの林彪批判の決定版とも看做してもよさそうだ。
毛沢東主張の「十大軍事原則」は、①先ず分散・孤立した敵を撃つ。②先ず小都市から奪取する。③敵の中核勢力を殲滅することを主要目標とする。④攻撃に当たっては絶対的に優勢な勢力を集中する。⑤準備なき戦闘はしない。⑥勇敢に闘い、犠牲と消耗を恐れず連続攻撃を展開する。⑦運動戦によって敵を殲滅する。⑧防備の希薄な拠点・都市を断固として奪取する。⑨鹵獲した敵の武器と兵員を転用する。⑩戦闘間の間隙を利用し部隊の休息と再編に努める――これが概略だ。対するに「六個戦術原則」は「一点両面」「四快一慢」「三種情況三種打法」「三猛」「三三制」「四組一隊」だが、この本に拠れば、「(国共内戦初期の)東北在住前後にデッチあげた」と酷評されている。
「十大軍事原則」は①作戦の基本方針は殲滅戦。②主要な作戦形式は運動戦。③正確な作戦方法は優勢な兵力を集中して敵を確固撃破する殲滅戦――の3本柱に纏められ、一方の「六個戦術原則」は①右傾機会主義路線の産物。②最もダメな点は殲滅戦に反対。③唯心論と機械論のごった煮でしかなく、とどのつまり④党権簒奪のために輿論を起こそうとするものだと糾弾されている。
かくして林彪の悪しき影響を払拭すべく、解放軍の現場ではこんな運動が展開された。
一、マルクス・レーニンと毛主席の著作を真剣に学び、国共内戦期における毛沢東の「輝ける軍事著作と多くの重要な指示を重点的に学習し、確固たる理論武器とした。
二、国共内戦期における林彪の罪行を告発し、国共内戦の勝利は毛沢東の「英明な領導と指揮の結果であり、文革路線の勝利を明らかにした。
三、儒教の持つ害毒を明確にし、林彪の軍事路線と政治路線への批判を結合させ、そのブルジョワ軍事路線が実質的には右傾であったことを暴露した。
四、林彪が推し進めたブルジョワ階級の軍事路線批判と儒教批判を結合させ、反動的な儒教こそが林彪の軍事路線の重要な思想的根拠であることを明らかにした。
五、幹部は率先し兵士は挙って林彪ブルジョワ軍事路線批判の「人民戦争」を戦った。
六、学習と批判を連隊建設の強力な推進動力とし、革命を掴み、生産・工作・戦略を促し、各種の任務を立派にやり遂げた。
軍事学の門外漢に「十大軍事原則」と「六個戦術原則」の優劣を論ずる資格も、ましてやこの本に納められた14編の論文と報告の当否を判断する能力もない。だが、この本を一貫する論調が冷静さを大いに欠き、甚だ粗雑な議論が展開されていることは指摘できる。いわば結論ありきで問答無用。ダメなものはダメ、である。権力闘争で敗れ去った者は、ありとあらゆる悪罵と非難中傷を甘受しなければならない。だから、石に齧りついても負けたらダメ。中国における権力闘争にはホンモノの命がかかっているのだから・・・。《QED》