樋泉克夫教授コラム
川柳>>>>>>>>>>>
《上三線 備戦備荒 為人民》⇒《国中が いくさじたくで てんてこまい》
*1965年3月、周恩来は閣議の席上、「戦争に備え、食糧を備え、人民のために」と演説。
【知道中国 646回】 一一・九・念九
――「人民元は永遠」・・・だそうです
『人民幣可以説不』(厳行方 中国城市出版社 2010年)
この本は、全部で8章90節から構成され、人民元はワシントンの意向に左右されることはないとの主張を極めて精緻に展開している。為替の仕組みや専門用語など判らないのだが、敢えて誤読を恐れず、著者の主張を章ごとに要約しておくと、
■第1章:人民元レートの実質=為替レートは貨幣で貨幣の価値を評価するシステムであり、一国、ないし地球全体の経済情況を客観的に示す目安であって、人的・恣意的な意思で左右できるものではない。それは身長が低いからといって、モノサシを勝手に作り変え、客観性を持たない新しいモノサシで測って身長が高いと言い張るのと同じだ。
■第2章:人民元レートの柔軟性=人民元レートは確実に柔軟性を保ち様々な経済情況に的確に対応している。だがアメリカはドルの価値を安定させ、海外資本のアメリカ投資を促進するため人民元の柔軟性を切り崩し、我が国のアメリカ経済への従属を狙っている。
■第3章:人民元レートはなぜ上昇するのか=中国の経済発展と経済的影響力の増大が背景にある。人民元レートが中国の国内情況ではなく国外的要因で迫られて上昇するなら、正常とはいえない。全世界の覇者であり続けることがアメリカの世界戦略である。それゆえ、考えられる限りの手段を弄して競争相手である中国を叩き潰そうとする。
■第4章:人民元レートの上昇はどのような影響を惹起するのか=人民元レートの上昇は短期的には通貨の膨張圧力を抑える効果があるが、中長期的には我が国の貿易に極めて深刻な打撃を与えることになる。大量の失業者を生み出し、我が国に投資された外資の引き上げを促し、国内の資産価値の高騰と経済秩序の混乱をもたらす。
■第5章:人民元レートは下がるのか=国内・国外を問わず人民元レートが正常な上昇状態にある際には、人民元レートを下げようなどという議論はすべきではない。「見えざる手」に任せておくべきだ。レートを人為的・強制的に左右するなら、最終的にはハイパーインフレか壊滅的デフレ情況を招いてしまう。
■第6章:人民元レート低下はどのような影響を及ぼすのか=通貨は大国への道を支える基盤だ。アメリカはドルで世界経済を牛耳り、ドルのレートを政策的・意図的に上下させることで自国の輸出競争力を高め、自国企業を保護している。アメリカが人民元についてとやかく口を挟むのは、超大国の横暴以外のなにものでもない。
■第7章:人民元レートはなぜ安定的に維持されなければならないのか=アメリカが人民元に対する「貨幣戦争」を仕掛ける根本には、30年に及ぶ両国間の総合国力の消長という問題がある。アメリカは、この戦争を中国押さえ込みの総合戦略の総決算と位置づけている。であればこそ中国にとっての将来の国運の盛衰もまた、この一戦にかかっている。中国は勇敢に闘いを継続し、戦いの主導権を握り、最終的勝利を収めなければならない。
■第9章:人民元レートの安定はどのような影響を与えるのか=世界人口の5分の1を占める中国の
ような大国が先行き不透明な世界経済の中で着実に発展を持続するためには、人民元は安定的であらねばならない。さもなくば世界経済のバランスを崩してしまう。
世界経済を人質に人民元レート死守を叫ぶが、この勢いでは人民元による世界経済制圧、ドルに代わっての人民元の基軸通貨化まで、もう一歩だ。鼻息は頗る荒いゾ。《QED》