樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 673回】            一一・十一・念二

      ――こんな風に学習すれば誰でもレーニンになれる・・・かもよ

      『列寧是怎様学習的』(人民出版社 1973年)

 表紙のイラストは、机に肘をつけた左手で広い額を支え、右手に鉛筆を持ったレーニンの上半身。目の前には書物が積み上げられている。表紙を繰ると、執務机に座り、覗き込むようにして「プラウダ」の記事を追っているレーニン、次の頁には赤の広場で群衆を前に演説するレーニン――2枚の写真が置かれている。2枚目は、群衆の写真の上に後からレーニンの立ち姿の写真を合成したとしか思えない。素人目にも偽造と思える。

 この本には未亡人が綴ったレーニンの回想――「レーニンは宣伝家で煽動家」「レーニンの編集作業」「レーニンが論じた労農大衆のためのよりよい著作」「レーニンはどのようにマルクスの著作を研究したか」「レーニンの著作に見える『資本論』」「創造性の研究過程」「理論を実際に結びつける学風」「レーニンの『唯物主義と経験批判主義』を記念して 出版25周年」「レーニンの方針」「レーニンはどのように図書館を利用したか」「レーニンはどのように外国語を学んだか」の11編が収められている。

 未亡人の回想は「プロレタリア階級革命の導き手であるレーニンが、どのようにマルクス主義を研究しマルクス主義を広めたのかを熱く語り、大衆と強く連係し、大衆と深くかかわり、労農大衆のために著作し、理論と実践とを結合させ、闘争の中で創造的にマルクス主義を研究し、より深い次元で著作を進めたことが、我われがレーニンの思想方法と工作方法を学ぶうえで、豊かな材料を提供してくれる」(「出版説明」)そうだ。ならば、この本を熟読玩味して「レーニンの思想方法と工作方法を」モノにしたらレーニンのように素晴らしい「宣伝家で煽動家」、つまり過激・巧妙なアジテーターになれる・・・のかな。

 先ずレーニンは、①なにものにも揺るがぬ断固たる信念、②徹底して掘り下げて問題を理解する持続的思考力、③理論と現実の生活を有機的に結びつけ、理論を噛み砕いて説明することで身の回り人々に現実を理解させる説得力、④理論を有機的に行動の指針に変える実践的応用力、⑤万全の演説原稿を準備する企画・修辞力――以上の特徴を備えたアジテーターであり、であればこそ「問題を鋭く提示すると同時に己の五体に横溢した熱情を迸らせて聴衆を引きつけ」、「聴衆の心を掴み、聴衆との間に必要な相互理解を打ち立てることに長けていた」。かくして「自己の思想の全体像を要点を掴んで理解」し他人に判り易く説明する一方で、「聴衆に対しては同志として接する。ここにこそレーニンの強力なプロパガンダの源泉がある」わけだ。要するに如何に巧妙に誤魔化し騙し続けるか、である。

 レーニンは倦まず弛まず書物を読み、考え、理解し、社会の様々な現実問題を解決するための方策を考え出す。マルクスの著作を研究しただけではなく、「敵との論戦の過程でマルクス主義の基本原理を明らかにしていった」。「主題を設定し、主題を論述し、修辞上の工夫を凝ら」し、「マルクス学説の通俗化」に努めた彼は、「革命の理論がなかったら、革命運動などありえない」との信念を貫いた。かくしてレーニンのアジテーターとして能力とプロパガンダの破壊力を最大限に讃える一方で、レーニン学説を「実際行動におけるマルクス主義であり、帝国主義とプロレタリア革命時代のマルクス主義」と位置づける。

 現在の北京の指導者たちが若者当時、この本を徹底して叩き込まれていたとしたら、プロパガンダの破壊力を熟知しアジテーター能力を高めることに努めたはず。改めて彼らの振舞いを見ると・・・アジテーターによるプロパガンダ政治。やはり三つ子の魂だ。《QED》