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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 674回】 一一・十一・念四
――いや~ッ、関心、感心、寒心・・・参りました
『祭之以礼』(梁家強 梁津煥記(礼儀顧問)公司 2011年)
著者は香港の寿衣公司(葬儀屋)では老舗中の老舗で知られる梁津煥記(礼儀顧問)公司の5代目の当主。創業者の梁津栄が葬儀屋の梁津号を広州市に創業したのは、日露戦争開戦の年に当たる光緒三十(1904)年だ。その3男の梁煥文夫婦が香港に移り、梁津煥記を開いたのは日本軍が香港島から英軍を駆逐し、軍政庁を置いた1942年である。その後、日本の敗戦と共に英国植民地政府が舞い戻り、そして1997年7月1日に「中国回帰」を果たした香港は中華人民共和国特別行政区へと名前も性格も変えた。
この間、営々と家業を続け、葬儀を通じて香港の人々の死と向き合ってきた梁津煥記だった。著者は「姉弟(きょうだい)と家訓を体し、責任を明確に果たし、今日、益々以て家業を振るわせ、社会の負託に応え、以て先祖から授けられた教育の恩に報いる」べくと、出版動機を記している。
多くの貴重な記録写真が付された詳細な梁津煥記の歴史から香港における葬儀の変遷を知ることができるだけでなく、時と共に変貌する葬儀の方法が香港社会の千変万化する姿を映し出していて興味は尽きない。それゆえ“香港葬儀百科全書”であると同時に、20世紀の香港史といってもよさそうだ。
巻頭から最後の1頁まで興味深い記述が続き、大型版(20㎝×27㎝で180頁余)だが一気に読み終わった。最も印象深かったのは、やはり「各類現代葬法」の項目だろう。
香港の人口は700万人強(2010年末現在)で年間の葬儀は4万件前後。約90%は火葬。全人口に占める65歳以上の割合は06年が12.4%だが、30年後には26%と予想されている。倍増以上だ。当然のように墓地が不足する。そこで伝統的な葬儀に加え、「海葬」「鑚石葬」「花園葬」「飛機葬」などの新しい方法の葬儀が執り行われるようになったわけだ。
海葬は07年から現在まで300件ほど行われているとのこと。香港政府の指定した海域に散骨する。政府チャーター船に遺族が乗船して毎週土曜日に行われる団体葬と、遺族個人チャーターの2種類があるそうだ。鑚石葬は遺灰を1300度程度の高温で焼き固め宝石状に研磨し装飾品として遺族の手許に。最近、安価・簡便で流行しているのが花園葬。指定された公園の花壇に遺灰を撒き、花壇後方に設けた壁に記念のプレートを埋め込む方式だ。
極く僅かながら最近見られるようになったのが、「最初から最後までが、まるで戦争のようで、非常にスリリング」な飛機葬だ。死後の世界での死者の安寧、加えて遺族・子孫のこの世での安穏・繁栄を願って、風水の条件に恵まれた墓地を選ぶ。風水最適地である墓地まで道がなく行けない場合、先ずはヘリコプターで棺を運び土葬した後に墓地までの通路を整備する。この飛機葬の手続きは極めて複雑で、先ず法律で墓地建設が許された土地を選んで申請する。次いで当局(民間航空局、警察、墓地管理署など)から許可をえた後、作業員は研修を義務付けられ、当日は指定された作業着を着用し、棺の吊り上げから埋葬まで3分の制限時間を厳守しなげればならない。狭い墓穴に正確に棺を納めなければならず、それゆえに「作業員全員が高度に精神を集中しなければならない」そうだ。
万事につけて贅沢でハデ好みの金満中国のオ大尽の皆様です。そのうちに香港の進んだ飛機葬を取り入れることになるはず。或いは既に・・・それにしても、よくやるよ。《QED》
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