樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 686回】            一一・十ニ・念一

      ――バカも休み休みに願います・・・(その3)

 12月17日の産経新聞に掲載された「緯度経度」欄は「正念場を迎えた中国モデル」と題し、山本勲記者が中国経済の危機的情況を詳細に分析していた。

 「中国経済の原則が鮮明になってきた」と説き起こした山本は、「景気後退は秋に入り明確になってきた」と承け、「来春にかけてさらに鈍るのは必至とみられる」と転じた。次いで、「政府の景気対策で国内総生産(GDP)が一昨年9・2%、昨年10・4%も伸びたことから、国際社会では『中国モデル』をもてはやす声も高まった」。「しかし市場原理を超えた政府主導の超大型景気対策の効果は長続きせず、副作用も多かった」とした後、政府は様々な景気テコ入れ策に加え、「インフレ、不動産急騰を抑制するため金融を引き締めたが、行き過ぎればバブル崩壊や金融不安を招き、景気失速(ハードランディング)につながりかねない局面を迎えた」。そこで「最低8%台の成長を維持」すべく「財政投融資を再び適度に緩め、重点インフラ建設を継続し、減税などにより消費拡大を図」ろうとしていると分析する山本は、「党・政府主導の『中国モデル』型対策としてはこんなところかもしれない」と“まずまずの及第点”を与える。

 だが、「すでに中進国の上位に達した中国の発展戦略としては問題がありそうだ」とし、①企業のイノベーションには「民間主導の公正、公平で開かれた市場経済体制の構築が欠かせないにもかかわらず」、「中国では国有企業が逆に勢力を増し、民営企業が窮地にある」。②内需主導発展の前提として「極端な所得格差の是正が欠かせない」にもかかわらず、依然としてそれが進んでいない。人口の1%が国富の4割強を保有する情況は手付かずのままだ。③GDPの1~2割を損失していると見られている腐敗は一向に止まない――などのマイナス要因を挙げ、「成長が5%以下になれば大規模な社会混乱も起きかねない」と警告を発した後、「中国経済は根本的、抜本的な体制改革を必要としている」と結んでいる。

 ここで、真に「根本的、抜本的な体制改革を必要としている」のは中国ではなく民主党政権下の“閉塞日本”だろうなどとチャチを入れる心算もないが、やはり問題とすべきは現下の中国で「根本的、抜本的な体制改革」が至難であること。いいかえるなら「根本的、抜本的な体制改革」を押し止めている大きな障害の存在だろう。

 たとえば山本が指摘するマイナス要因を上記の番号に即して考えるなら、①おそらく中国でも企業のイノベーションに向けて「民間主導の公正、公平で開かれた市場経済体制の構築」への動きがあるはずだ。だが、その動きを、国有企業が民営企業を窮地に陥らせるほどに力を増している現状を“是”とする勢力が抑えている。②毛沢東時代の悪平等社会とは全く異なり、評価の良し悪しは別にして、経済のみならず社会の仕組みそのものが所得格差を前提として組み立てられてしまい、経済全般が「勝ち組」を軸に回っている。いわば極く少数の勝ち組が経済を牛耳っている。③腐敗を”罪悪“とは看做さず、腐敗から余得を得ている勢力の発言権が他を圧倒している――これが現状ではなかろうか。

 経済発展のための「党・政府主導の『中国モデル』」は「党・政府主導」であるゆえ、今後の発展は容易ではないだろう。「中国モデル」は一党独裁・上意下達・絶対服従を柱とする市場レーニン主義がカギとなる。「中国モデル」は毛沢東思想という失敗を乗り越えて成功した。つまり失敗は成功の母。だが、往々にして成功は失敗の父でもある。やはり克服すべき課題は経済ではなく、共産党を頂点とする社会の仕組みなのだ。共産党一党独裁の国で経済だけを切り離して論じたところで・・・賽の河原の石積みに似て、虚しい。《QED》