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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 690回】 一一・十ニ・念九
――その昔、熱く語(騙?)っていたこと・・・お忘れですか
『資本主義貨幣危機』(尹士楚・貝世京 人民出版社 1974年)
「通貨危機は日ごとに深刻さを増し、現在の資本主義国家が最も頭を悩ませる問題の一つとなり、猛烈に頻繁に資本主義各国を襲っている」。「通貨危機の暴風に襲われるごとに、資本主義諸国の為替相場は劇的に変動し、金の価格はうなぎ登りに急上昇する。甚だしい場合には外為市場は閉鎖され、国際金融市場を大混乱に陥らせる」。
かくして「資本主義における政治、経済の危機は深刻の度を加え、国家独占資本主義が深化するにしたがって帝国主義国家はいよいよ財政出動に頼って経済の建て直しを図り、経済危機の脅威からの脱却を画策し、生き残りの道を探る。だが国家資本主義が目論む様々な方策は資本家にとっての天国建設を目指すのみで、広範なる労働人民にとっては過酷な軍事キャンプに強制収容されることを意味する」。資本主義の本質が改められることはなく、結果として財政・貨幣・金融危機などを激化させることになる。「そのため、独占資本階級は国家の持つ様々なシステムを利用して」、「政府の予算を増大させると共に金融市場をコントロールすることを通じ」、危機の先延ばしを狙う。
だが、そうした措置は結果として「膨大な財政赤字を生み、通貨を著しく膨張させ、銀行による金利を限りなく変動させ、国際収支の不安定化を招くなどの背景の下で、資本主義の貨幣危機は日々深刻化することになる。かくして旧い病気が癒えないうちに新しい病気になるように、様々な危機が止むことなく連鎖的に起こることになる」。
「貨幣危機の暴風に一再ならず襲われている現下の情況において、戦後に打ち立てられた米ドルを機軸とする貨幣中心の資本主義における世界の貨幣体系は既に瓦解している。こういった情況は、資本主義における貨幣危機が新たなる危機段階に突入したことを意味する。今後の推移、帝国主義国家におけるこの問題に起因する矛盾と闘争が、国際政治経済の各方面に共に大きな影響を与えることになる」。だから、「この問題に対し我われは関心を持ち研究を進め、国際情勢全体を相対的に把握し、毛主席の革命外交路線に服務することを徹底させなければならない」とし、「資本主義各国の通貨が膨張するにしたがって各国紙幣の信用はいよいよ低下し、金争奪も必然的に激しさを増し、さらなる混乱が巻き起こる。同時に米ドルの持つ覇権的地位は下落するが、いかなる資本主義国家の貨幣が米ドルに代わることはありえない」と結論付ける。
以上、記述をそのまま引用して、この本の要旨を纏めてみた。何をいっているのか判らないが、何を言いたいのかが判る文章の典型といえそうだ。つまり資本主義の崩壊は必然であり、毛沢東思想により新しい世界を打ち立てれば人類は幸福になるということだろう。
だが当然のことながら、そうは問屋が卸さない。じつは深刻な危機に襲われたのは資本主義国家ではなく、「毛主席の革命外交路線」であり、ゴ本尊サマの毛沢東思想そのものだった。そこで鄧小平の共産党は「毛主席の革命外交路線」を引っ込めて、毛沢東思想をボロ雑巾のように捨て去る一方で、「中国の特色を持つ社会主義」やら「社会主義市場経済」などと見え透いた“言い訳”をしながら自らの強い意思で世界の資本主義市場経済に飛び込んだ。これが共産党に一元的に統治された中国の特色ある市場経済、つまり市場レーニン主義だ。それにしても中国の特色とは実に便利なことばだ。これさえ使えば、どんなムリも通り、矛盾も直ちに雲散霧消だ。中国の特色、それをチョー自己チューという。《QED》
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