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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 714回】 一ニ・二・仲六
――万事が強欲で残酷、冷血非情で因果は廻る
『開国大土改』(白希 中共党史出版社 2009年)
1950年から53年にかけて中国全土で展開された土地改革運動、鎮圧反革命(反対勢力軍事制圧)運動、抗美援朝(朝鮮戦争支援)運動を「開国三大運動」と総称する。
建国したとはいえ、農地を押さえて農民に対する生殺与奪の権限を持つ地主は依然として農村で権力を握っている一方、国民党残存勢力をはじめとする反共産党勢力は各地に蟠踞し抵抗を繰り返す。朝鮮戦争参戦は人的にも財政的にも発足間もない政権の体力を容赦なく奪い去る。運動の結果次第では、未だ政権基盤の脆弱な中華人民共和国は崩壊しかねない。苦境の中で、毛沢東政権は開国三大運動に命運を賭ける。勇ましくも国民を鼓舞するが、伸るか反るか。政権にとっては背水の陣。内実は絶対必死の大博打ではなかったか。
裏表紙に「紀実文学(ドキュメンタリー)の手法で、この偉大なる運動を最初に描いた。第一次資料を基にして、農民に対する地主の残酷な搾取と血腥い圧迫を迫真をもって抉り、封建地主による土地制度を改革しなければならなかった緊要性と必要性とを明らかにしている」と記されているように、土地改革運動の実態を豊富な資料を駆使して判り易く描く。だが、悪逆非道の限りを尽くす地主に対し、超人的な忍従の末に共産党と共に決起する農民――共産党式の勧善懲悪ドラマ仕立ての展開で、白けるばかり。
物語は年貢を納められない農民に地主が加える折檻の紹介から始まる。5本指を固く縛り上げ鋭く削った竹片を爪の間に打ち込む「吃毛竹筷」。厳寒に裸にして冷え切ったレンガに足を投げ出すように座らせ、レンガが温まったら冷たいのに換える「冷磚頭」。鋭い棘のある竹で編んだ籠に農民を入れ、ゴロゴロと激しく転ばす「滾笆簍」。こんな酷い仕打ちを受けても払えない。そこで年貢代わりに娘や嫁を連れてゆく。あるいは地主の屋敷に設えた水牢に押し込んで衰弱させ、石灰で口を塞いで、死体をゴミ捨て場にポイッ。年貢が出せないから近くで漁をしてカネを作ろうとすると、収穫の60%以上を入漁料として取り上げる。抵抗すると、待っているのは地主が雇っているゴロツキの容赦のない暴力。おお怖ッ。
ワル、ワル、ワル・・・ワルといえば地主、地主といえばワル。地主は極悪非道の塊だった。たとえば「罪が多すぎて逐一挙げることは困難だ」で、「黄門四虎」と恐れられた黄兄弟だ。長男は「奸淫、強奸、騙奸、婦女誘奸は数え上げられない。農民を殺した後、その妻、娘を奸淫し、その父親や兄を殺す。酷い場合は奸した後に殺す。その上、若い娘は商品として他の地方のゴロツキ、役人、地主に売り飛ばす」。次男の「暴虐ぶりは長男の上を行く。1950年に(地主糾弾集会で)群集が告発し調査した結果、被害者は54人。(彼は近隣の地域で)『初夜権』を持っていた。美人がいたら結婚初夜は先ず彼が楽しむ。その夜、彼は酒を喰らいアヘンを吸い、拳銃を手にして寝室へ向かう」。越後屋なんて子供騙しだ。
父親は清末に役人として財を成し土地を手にして蓄財に励んだ。鉄製品工場、染色工場、雑貨店、アヘン商、毛皮商、木耳商、茶館、アヘン窟、旅館、賭場などを手広く経営。4人の息子は全員が国民党や反共救国軍の地方幹部であり、地方議会議員などの“公職”も務める。まさに地域の皇帝――土皇帝である。そこへ共産党が乗り込んで、正義の刃を振り下ろす。かくして悪徳地主は消え去り、農民は地主から取り上げた土地を自らのものとして豊かに幸せに暮らしたとさ。めでたしメデタシ・・・なら問題はなかったわけですが。
それにしても旧中国には農民・農村のために働く立派な地主、二宮尊徳のように刻苦勉励して篤農家となったような農民はいなかったのだろうか。なんとも不思議だナア。《QED》
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