樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 733回】             一ニ・三・三一

    ――森羅万象、凡て「毛主席」の御意のままのはず・・・だった

    『毛主席的五篇哲学著作中的歴史事件和人物簡介』(人民出版社 1972年)


 「毛主席は歴史学習を一貫して重視してきた」。「歴史学習は革命の導き手が指し示す革命の道理を我われがより的確に身につけ、内外における現在の階級闘争の形勢を正確に理解することを助け、かくして我われの階級闘争、路線闘争、プロレタリア独裁下での継続革命への覚悟を高める」。そこで『実践論』『矛盾論』など毛沢東の代表的な哲学著作において言及されている歴史的な事件や人物にかんする知識を、「学習に即応させるべく、簡単明瞭に要点を絞り、重点的に提供しよう」と出版されたのが、この本ということになる。

 フランス革命やロシア革命、コペルニクスやトロツキーなど中国以外の事件や人物も扱われているが、取り敢えず中国の歴史的事件として扱われているアヘン戦争(1840年)から国共内戦(1946年~49年)までの19項目の中から興味深いものを拾い、それらに対する評価を見ておこう。

■アヘン戦争(1840年)=「中国社会の性質の変化に従って、中国人民の革命運動は外国の侵略と国内の封建勢力に拠る圧迫に反対するという二重の任務を帯びたのである。1840年、中国近代100年における偉大なる革命運動の感動と涙の歴史物語が始まった」

■日清戦争(1894年)=「1895年に占領されてから1945年に中国に還るまでの日本帝国主義による残虐な統治が続いた期間、台湾同胞は祖国の懐に還るべく闘争を間断なく続けた。彼らは英雄的で不撓不屈であり、倒されても倒されても闘争を止めず、日本帝国主義占領者に対し涙なくしては語れないような戦いを続け、大規模な武装蜂起は20数回に及んだ。このことは中国人民が外国の侵略者には永遠に征服されることはなく、中国の領土は外国の侵略者に永遠に分割されることはないことを明々白々に物語っている」

■義和団事件(1900年)=「義和団運動の革命的業績は、近代中国人民の反帝反封建闘争史において永遠の輝きを放ち、中国人民を励まし続ける」

■辛亥革命(1911年)=「中国を260年に亘って統治した清朝は倒れ、2千年以上続いた封建君主専制体制も最後の幕を閉じた。だが、中国共産党の指導がなく、プロレタリア階級の自覚を持って革命に臨まなかったことから辛亥革命は流産し、政権は袁世凱を筆頭とする北洋軍閥の手に落ち、中国は依然として半封建反植民地の地位に止まった」

■長征(1934年~35年)=「この時、紅軍は10万人から3万人足らずに激減した。我が共産党の力量は数量的には減少したが、反対に正しい路線によって質量的には強固になった。この3万人足らずの隊伍は党にとって最も宝貴な精華、中国人民にとってかけがえのない財産、中華民族の希望、そして中国革命を勝利のうちに発展させる支柱なのだ」

■国共内戦(1946年~49年)=「(49年10月1日)中華人民共和国の偉大な創造者、全国各民族人民の偉大な領袖の毛主席は天安門の楼上に上り、自ら五星紅旗を掲揚し、全世界に向けて中華人民共和国の光栄ある建国を厳かに告げた。中国人民は立ち上がった。偉大なる新中国は世界の東方に巍然と立った。この時より中国人民は新しい偉大な歴史段階に足を踏み出し、偉大なる毛主席の指導の下、プロレタリア階級独裁下の継続革命の航路に従って、荒波を蹴散らし、勝利のうちに前進する!」

 ――これまで共産党は「荒波を蹴散らし、勝利のうちに前進」してきはずだが、いまや「偉大なる毛主席の指導」を欠いてしまったことで、哀しいことでだが、何処に向かって、どのように進むべきか。莫明其妙(なにがなんだか全く判らないわけ)なんです。《QED》