樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 738回】              一ニ・四・仲二

     ――毛沢東は「圧迫あれば反抗あり」といいますが・・・

     『緑林赤眉起義』(陳振 中華書局 1974年)


 絶頂期にあった四人組が思うが侭に権勢を振るっていた1974年前後に「歴史知識読物」シリーズが続々と出版された。この本もそのうちの1冊だ。このシリーズのなかで書名に「起義」のついたものに『黄巾起義』(羅秉英/以下、共に中華書局から1974年出版)、『李自成起義』(厳紹●/●=湯の下に玉)、『清代中葉的白蓮教起義』(夏家駿)があるが、この本を含め、凡ての表紙を開けると次の「毛主席語録」が掲げてある。

 「地主階級の農民に対する残酷な経済的搾取と政治的圧迫は農民を数多くの起義に立ち上がらせ、地主階級の統治に反抗させた。秦朝の陳勝、呉広、項羽、劉邦からはじまり、漢朝の新市、平林、赤眉、銅馬と黄巾、隋朝の李蜜、竇建徳、唐朝の王仙芝、黄巣、宋朝の宋江、方臘、元朝の朱元璋、明朝の李自成を経て清朝の太平天国に到るまで、大小で数百回の起義を数えるが、その凡ては農民による反抗運動であり、凡てが農民による革命戦争だ。中国歴史における農民による反抗と革命戦争の規模の大きさは、世界史におきても稀有なことだ。中国の封建社会においては、こういった農民による階級闘争、起義、戦争こそが、歴史を発展させる真正の原動力なのだ」。

 つまり「中国の封建社会において」、「地主階級の農民に対する残酷な経済的搾取と政治的圧迫」が農民を反抗運動に駆り立てる。これを「起義」と呼ぶ。毛沢東は起義を「歴史を発展させる真正の原動力」である主張し、起義の先頭に立った人物を英雄として讃える。 

 4冊のあらすじを起・承・転・結で整理すると、起=封建地主階級による苛斂誅求に怒り心頭に達した農民が鋤や鍬を武器に立ち上がる。承=各地の困窮農民が呼応し、戦いは燎原の火の如く広がり、農民による政権が打ち立てられる。転=追い詰められた地主階級が既得権を死守し前進すべき歴史の流れを阻もうと農民政権を攻撃する。結=指導者は英雄的な死を遂げ、農民の天下は束の間の夢に終わり、前進すべき歴史の流れは阻まれる。

 そこで4冊の最終部分を見ると、

■「(起義の指導者は)農民を率い決起し、封建官吏と地主豪族を殺し、中央官軍の歩兵・騎兵からなる数千人の精鋭部隊を殲滅した。起義軍が勇猛果敢に戦うこと3ヶ月・・・後、起義軍は突破・包囲作戦の最中に鎮圧され、(指導者は)壮烈な犠牲を遂げた。(だが、起義は止むことなく続き)黄巾大起義に発展し、反動的な統治階級に壊滅的な打撃を与え、再び歴史の歯車を前進させる」(『緑林赤眉起義』)

■「黄巾起義は失敗したが、それは我が国人民に対し、我が国の歴史発展のためにこのうえない貢献を果たすという貴重な精神的財産を残してくれた。黄巾起義の農民は1千余年前に困苦に絶え、このうえなく自由を愛し、革命的伝統に満ち溢れた偉大なる中華民族の優秀な児女だ。黄巾の英雄よ、永遠に !」(『黄巾起義』)

■「李自成は不撓不屈・徹底奮闘の農民革命の英雄で、彼は一生を光栄にも革命のために戦闘堅持の姿勢を貫いた。彼の名前は永遠に歴史に刻まれる」(『李自成起義』)

■「清代中葉の白蓮教の起義を回顧すれば・・・(彼らが戦場とした)綿々と続く蘶峩たる山峰は、まるで高く聳え雲にも届かんとするような英雄記念碑であり、人民革命の万丈の光芒を永遠に燦然と光り輝かせている)(『清代中葉的白蓮教起義』)

 ――金満退廃で歴史停滞のいまこそ、数限りない失敗の末に唯一起義を成功させた毛沢東に倣い「歴史を発展させる真正の原動力」を発動せよ、人民諸君・・・ムリかな~。《QED》