樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 744回】               一ニ・四・念八

    ――この場合、「無知の知」は成り立たない・・・断固として


 上海で昆明行きの国内線に乗り換え手にした『環球日報』(4月27日)で目に付いた記事は、「深度報道」欄の「日本勢力、再度の東南アジア進出に勢いづく 政治・経済・文化・教育の各方面からの滲透 侵略者の姿を消すことに成功」と題された評論記事だった。4人の「本報駐外記者」が、3月21日に東京で開催された日本・メコン地域諸国首脳会議を中心に野田政権による最近の日本の東南アジア外交を詳細に論じている。

 日本・メコン地域諸国首脳会議を指し「今次会議は日本による“第2次アジア・マーシャル・プラン”だろうか。最近になって複雑微妙な情況を呈しつつある東南アジアにしばしばチラつく影、それが日本だ」と書き出された記事は、「日本はメコン流域国家に過去には見られなかった最大級の政府援助と債務免除を高らかに宣言したが、さらに自衛隊による在フィリピン米軍基地への長期駐屯情報まで伝えられる」と続け、東京での会議で①ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ヴェトナムの参加5カ国に対し高速鉄道事業などを含む総事業費2兆3千億円余を拠出、②対ミャンマー円借款延滞債権のうちの3千億円余放棄を決定――これを「札束外交」と呼び、「より注視すべきは、背後に見え隠れする日本による東南アジアに対する政治と軍事の両面からの介入だ」と糾弾した。

 以下、朝日、毎日、日経、産経などの日本の各紙やタイ英字紙のネーションなどの記事、さらに関係各国研究者の発言などを織り交ぜながら、以下のような主張を展開する。

 第一に過去、現在はもとより将来にわたっても「日本は東南アジアへの意欲を持続し、諦めることはない」とし、過去と現在の事例を紹介した後、その確たる証拠として会議が採択した「Tokyo Strategy for Mekong-Japan Cooperation 2012」を挙げる。いわく、この文書は「朝鮮の衛星発射や朝鮮による日本人拉致非難など、メコン流域とは関係のない文言までが盛り込まれているが、これこそが日本の意図の明確な証拠である」。

 第二に日本は東南アジアが持つ資源と戦略的位置を欲しているだけでなく、「日本のさらなる懸念は、東南アジアにおける中国の“存在”」であり、「中国と競うため、最近になって日本は東南アジアへの投資を急増させている」。「日本の対外援助は“政治大国戦略”の延長上にあり、その援助は東南アジアを友と看做す立場からから発せられたものではなく、明確な戦略に基づき、被援助国の防衛と外交政策に対するヒモ付きである」。

 第三に日本は東南アジアで新たなるイメージを打ち出している。戦後数10年の間、「日本は東南アジアに対し文化宣伝とソフト・パワーの輸出に意を注ぎ、かつての侵略者のイメージを払拭することに成功した」。いまや日本は「東南アジアで投資者であり同時に国際社会における友人として迎えられている」。だが、問題は鎧の下に隠された意図だ。たとえばカンボジアに対する援助の中には「人口調査や地理測量などの項目があるが、将来的に軍事面で利用しないと誰が保証できるのだ」。このように日本の援助は東南アジアの将来を掌握しようという意図から発せられている。

 同記事の意図的な誤解に不快感を抱きつつ思ったことは、やはり日本政府の将来に渡る東南アジア外交の意図と方向性だ。このまま進めば、その当否はともかくも、いまやメコン流域を裏庭と看做し我が物顔に振る舞っている北京との摩擦は必死だろう。従来のままに北京の顔色を伺いながらの成り行きと出任せの外交が続くなら、2兆3千億円余が産むはずの“果実”は、回りまわって北京に掠め取られる危険性は大だ。日本政府にとっての急務は、北京との摩擦を覚悟しての確固たる「Strategy for Japan」の構築な野田。《QED》