樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 746回】               一ニ・四・三〇

     ――上の政策を柳に風と受け流す・・・これこそが下の対策

     『論党的群衆工作』(中共中央宣伝部理論局 学習出版社 2011年)


 「重要論述摘編」と題された副題を持つこの本は、「一、大衆工作に関する重要性について」「二、大衆の観点を確立することについて」「三、大衆路線を貫徹する自覚について」「四、一貫して大衆の立場に立脚することについて」「五、大衆工作の主要な任務について」「六、大衆工作の本質を高めることについて」の6つの部分に分かれ、毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤の過去から現在までの4人の共産党首脳の過去の発言から、各々のテーマに関する部分を選び編集したもの。さながら「歴代党最高首脳語録」といったところだろうか。

 冒頭に中共中央規律検査委員会、中共中央組織部、中共中央宣伝部という党最中枢3機関の連名による2011年4月21日付けの「『論党的群衆工作』の学習を真剣に組織することに関する通知」が掲げられているが、党の上から下までを覆う腐敗堕落を断固として阻止・防止しようという胡錦濤の並々ならぬ決意の程が伺える。

 内容の一端を紹介すると、たとえば「一」で最初に置かれているのは、「革命戦争は大衆の戦争であり、大衆を動員してこそ戦争を進めることができる。大衆を信頼してこそ戦争を進めることができる」という毛沢東の発言だ。

 以下、主な発言を拾ってみると、「共産党の基本中の基本こそは、広範な革命人民大衆に直接依拠することである」(毛沢東)、「我われは4つの近代化を推し進めているが、経験不足から多方面の困難にぶち当たりかねない。・・・根本に立ち返るなら、これらの問題は大衆を信じ、大衆に依拠し、可能な限りに大衆路線を歩いてこそ、解決に到るものだ」(鄧小平)、「我が党が統導する改革開放と近代化建設の事業は、人民大衆が参加する、人民大衆の利益を図るための事業であり、人民を信頼し依拠してこそ彼らの積極性と創造性を十分に発揮させ、成功をうることが可能となるのだ」(江沢民)、「労働者階級と広範なる労働大衆の経済、政治、文化、社会の権利を保障することは我が国社会主義制度の根本的な要求であり、党と国家の神聖なる責務であり、我が国労働者階級と広範なる労働大衆の積極性、主動性、創造性を引き出すための最も基礎的な工作である」(胡錦濤)

 現在の党のトップである胡錦濤の発言が最も多くのスペースを占めているが、この本の最後を締めるのは2010年10月に行われた党最重要会議における発言だ。曰く、「新しい情況下で行われる大衆工作は、誰もが手を携えて行うべきだ。各レベルの党委員会、人民大会、政府、政協と労働組合、共産主義青年団、婦人聯盟などの人民団体は凡て大衆工作を高度に重視し主体的に展開すべきだ。同時に統一戦線における各界各層の人士、都市と農村の自治組織、企業、社会団体、同業組織、各種社会組織などと共に大衆工作を進めることを支持し、新たなる情況の下での大衆工作を強化し改革する総合力を形成し、大衆工作の新たなる局面を不断に切り開き創造せよ」

 「革命戦争は・・・」と毛沢東が語った1934年から数えるなら上記の胡錦濤発言までは76年余が経過しているが、2人の党最高首脳による発言趣旨は同じように思える。大衆に依拠し、腐敗堕落を根絶せよ。76年が過ぎても同じことの繰り返し。腐敗堕落は止まない。

 因みに4月29日、ミャンマーとの国境に在る畹町の裏通りにひっそりと店を構えた国営・新華書店の支店で購入。店の奥の書棚で手に取ると、表紙は埃でザラついていた。《QED》