樋泉克夫教授コラム

  【知道中国 749回】             一ニ・五・仲一

    ――庶民のために安価な墓地を提供致します


 昆明で雲南講武学堂見学を終え街に出て歩いていると、歩道でおばさんがビラを配っている。見ると墓地の広告だ。そこで暇潰しがてら、おばさんの話に耳を傾ける。するとおばさん、いや墓地販売促進員は歩道脇の街路樹の根元に立てかけた写真ボードを示しながら、「私どもの墓地は宝象山公墓と申しまして、雲南省民政庁から認定されました合法的な園林式墓地で御座います」と、やおら熱っぽく語りだす。

 彼女の話を総合すると、墓地は緑の新樹に囲まれ手厚く葬るが簡素を旨としている。決して贅を尽くしたものではなく、極く低廉な価格で、購入者に必要以上の負担は掛けない。さすがに漢字の国である。これを「樹新風厚養薄葬 減重負一片真情」と表現するそうな。続いて彼女は、「民政局の『貧困層を愛し、平民百姓(しょみん)に利便を』という呼び掛けに応じ、庶民の頭と懐を悩ませる葬儀費用の右肩上がりの上昇に抗すべく、わが社が智慧を絞った結果、宝象山の持つ優れた風水環境を十二分に生かし、静謐で、和やかで、自然と調和した墓苑を低価格で提供できるようになった。ここを手に入れれば子孫繁栄も違いなし、というのが彼女の殺し文句。

 そこで値段を尋ねると、「真情恵民価格」ということで5800元。但し低収入証明書の提示が必要であり、第一期販売で300単位を用意しているとか。近くのレストラン入り口に「ウエートレス:1100~1300元+ボーナス」という求人募集広告が張ってあったが、この給与基準からいって、確かに高くはなさそうだ。特にサービスはないのかと訊くと、「お買い上げ戴きますと、陶板に生前像を焼きこみ、これが500元。それを1500元相当の花崗岩の墓石に嵌め込みまして、生前を偲ぶ縁とさせて戴きます。加えて墓地参観無料送迎バスをご用意致すほか、ご葬儀に際しましては専用霊柩車、プロの葬送儀仗隊を用意致します」と、立て板に水で説明してくれた。

 立てかけられた写真ボードに目を転ずると、「購入は早ければ早いほどムダ使いをしなくてすみます」と大きな文字。その下に「わが社の大部分の商品には50%の貸付特典があります。残余の50%を10年で返済すれば、お客様には大幅な費用節約となります。かりに1万元の墓地をお買い上げいただきますと、以下の図表のようになります」とあり、グラフが示されていた。だが、見てもよく判らない。そこで、50%貸付特典について尋ねる。すると名刺を取り出し、「興味があるなら事務所で詳しく」と。申し訳ないので名刺だけ受け取り、時間がないからと早々に退散した次第である。

 後で調べてみると、昆明辺りの相場は判らなかったが、北京では最も有名で多くの著名人や革命元勲が埋葬されている八宝山人民公墓を例にみると、1区画当たり最低価格の1.9万元から最高は10万元まで。もっとも北京の、それも中国で最も格式の高い墓地と昆明の庶民用格安墓地を比較する方がムリというものだろう。確かに5800元は御値打だが、これに棺代に葬式代が加わるわけだから、中国でも、そう簡単には死ねそうになさそうだ。

 次いで滇緬公路の起点を示す石造りの記念碑を見た後、日本軍にとっては憎んでも余りある飛虎隊(フライング・タイガー)の司令部跡に向かったのだが、これがなんとも傑作の限り。レストランに大変身。当時の米軍軍服をお洒落に着こなしたお嬢さんたちがカーキ色のミニスカートに黄色い声で「歓迎、歓迎」の連呼だ。商売、商売である。《QED》