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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 763回】 一ニ・六・仲三
――「計画生育家庭」の「意外傷害保険」と「手術安康意外傷害保険」
道路を横切りホテルの壁に沿って歩くと、目立つ場所に新聞紙見開き2頁大の紅い紙が貼られていた。最上部には「通知」、最下部には「龍山社区居民委員会 2012.4.16」と墨痕鮮やかに記されている。どうやら、この一帯を龍山社区と呼び、町内会のような組織とでもいうべき居民委員会による通知らしい。だが町内会のようなとはいうものの、日本の町内会とは大違い。実際は共産党の末端に位置し、一般民衆を管理するための組織だ。
「龍山社区管轄区各住民へ/計画生育系列保険は人口と計画生育工作の推動器であり、社会の和解と家庭の安定を維持するための穏定器である。国務院国発〔2010〕23号文書と雲政発〔2006〕174号文書に基づき、ここに保険に関し以下を通知するので、宜しく承知されたい。/一、手続き受付時間:2012年4月16日から5月25日まで。/二、申請者は戸口簿(身分証でも可)を持参し社区の受付にて処理すること。/三、計画生育家庭意外障害保険につき、一人っ子家庭、女子双子家庭は各自15元を、他の家庭は30元を負担すること。計画生育手術安康意外傷害保険につき、一人っ子家庭、女子双子家庭は7元を県と市の財政で補助する。その他の家庭の費用は各自負担のこと。/以上、特に通知す」
以上が全文だ。推動器やら穏定器などと場違いとも思える表現のようだが、特別なことを指しているわけではない。「器」は手段といった意味合いだろう。1958年以来、中国では国民を農村戸口と都市戸口とに分け、その移動・移住を厳格に禁止してきた。最近では戸口による厳格な管理はなし崩し的に緩まってはいるものの、全国規模で撤廃されたわけではない。ここに示された戸口簿は、住所証明と考えてよさそうだ。
計画生育家庭意外障害保険と計画生育手術安康意外傷害保険の内容がよく判らない。質問しようと思ったが、残念なことに誰も歩いていない。ならば考えるしかない。一人っ子家庭と女子双子家庭の負担が軽い点、あるいは公的な補助がある点にヒントがあるのか。じつは10年ほど前に一人っ子政策に就いて調べたことがあるが、居民委員会のお節介なオバチャンたちが目を光らせていて、妊娠している女性に目を付けると1人目か否かを問い質し、2番目以降なら連れ添って病院に行き堕胎手術を受けさせるといった事実を知って吃驚したことがある。意外障害保険とは子供に対する傷害保険であり、手術安康意外傷害保険は強制的な堕胎手術の際の突発事態を想定しての保険かもしれない。強制手術で健康を害す、あるいは最悪の事態が生じているということだろうか。なんとも遣り切れない話だが、保険制度を施行しようとしているだけでも進歩と考えるべきだろう。
最近の報道によれば、現在の人口抑制策を厳格に実施し続けると、100年後には中国の人口は5億人、ということは現在の3分の1ほどに激減するとの研究が発表されたとのことだが、世界戦略からいって膨大な人口が最強の武器であると同時に最大の弱点(なんせ喰わせ続けなければならない)であることを考えると、中国歴代の為政者にとって人口政策は最大の難問であり、共産党政権にとっても事情は同じはずだ。
街をほっつき歩いているうちに出発時間となり車に乗り込む。
龍陵の市街地を抜けると、古山が「滇緬公路は、龍陵の街を貫いて東山の前方に延び、そこで三叉路になる」(『龍陵会戦』)と綴るように三叉路にでた。「右へ行けば拉孟に至る。左が騰越へ行く道である」。三叉路を右折し拉孟に向かう。日本兵の歩いた道だ。《QED》
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