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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 766回】 一ニ・六・仲九
――「党県委員会の懇切で強力な指導」という“枕詞”は必須です
国境の南の異国に住みついている漢族の末裔こそ、中国にとっては最上の戦略資産といえるだろう。中国しか持ち合わせていない戦略資産を踏み台にして、北京は「熱帯への進軍」を着々と推し進めている。今後、北京は華人という人的戦略資産をさらに活用するに違いない。やはり華人という存在は、この地域における永遠の難問なのだ。
――やがて霧が立ち込め、空からポツポツと落ちてきたかと思うと、程なく篠つく雨に変わった。急坂を進むのは危険と、車は峠の鄙びた食堂前で雨宿り。ついでに昼食。暇ついでに厨房に入り込み、料理人と話す。30歳前後だろうか。若い女房と2人で経営しているとのこと。ゴーゴーと唸りをあげて燃え盛る火に鍋をかけ、次々に料理を仕上げていく手並みは見事なもの。昆明で料理修業をしていたが、結婚を機に生まれ故郷のこの山里に戻ってきた。こんなチッポケな店だが、前の通りの通行量が増えているばかりか、客が値の張る料理を注文してくれるようになったので、売り上げは順調に伸びているとのこと。こんなところにも金満経済の波が及んでいるのかと、驚くばかり。 食堂の前の通りを挟んだ向かいの壁に目を遣ると、なにやら印刷された真紅の張り紙。これも新聞紙見開き2頁大。雨の通りを横切って、その張り紙の文字を読む。
最上部中央に「2011年 龍陵一中高考快訊(一)」と大きく書かれたハデな張り紙は、龍陵第一中学が張り出した入試成績表だ。受験生の獲得点数が有無を言わせず白日の下に曝け出されている。バカか悧巧か一目瞭然。個人情報の保護もクソもあったものではない。 「龍陵一中高考快訊(一)」は、「(共産党)県委員会、県政府の懇切で強力な指導、教育局の深い心から示された関心、社会と兄弟学校の関心と支持の下で、我が校は教育改革を絶え間なく深化させ、学校管理を強化し、教学に関する質量を高めることに努めてまいりました。本年、我が校高級中学3年卒業生は3年間に及ぶ必死の学習によって、難度がさらに増している今年度の高考ではありますが、我が校は格段の好成績を挙げることができました」と書き出されている。
次に示されているのが個人成績だ。 「一:王偉 590点 全県の理系第一位/段莉芝:540点 全県文系第一位/体育専門部門では空前の成績。楊必伝:文系の成績は425点。体育系成績は88.06点。重点体育大学に入学。/二、我が校大学受験生のうち、希望大学入学可能得点者は43人。王偉 590点~(51人の名前と得点が列記され)~黄楠 505点」とあり、以下、詳しい得点分布や平均点などを交え詳細な入試分析が続き、「以上のように、我が校に入学した暁には大学入試合格は100%保証致します」と記す。 かくて張り紙は、「勇躍として我が龍陵一中の受験を希望する学生諸君を歓迎します。龍陵一中こそ、大学合格というキミの大きな夢を実現させる楽園である!/龍陵県第一中学 2011年6月26日」と、一段と大きな文字で結ばれている。
「高考」とは全国一斉に実施される大学入試のこと。公立だろうか私立だろうか。おそらく龍陵県第一中学もまた必死に学生を集めなければならない事情があるはず。なりふり構ってはいられない。県下の優秀な生徒を掻き集め、有名大学に送り込むしなかない。
「学問商店」、略して「学店」の波は龍陵のような田舎にまで。商売、ショーバイ。《QED》
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