樋泉克夫教授コラム

【知道中国 778回】                 一ニ・七・仲六

 ――騰冲は「天賦超卓的神奇処女地」だそうです

 「国際首席休閑養生大城 world’s leading leisure and health metropolis」とは、なんとも大きな風呂敷を広げるものだと驚きもしたが、この程度で驚いてはいられない。上には上があった。

 滇西には火山が少なくなく、騰冲郊外には熱海という地名があるほどに温泉も多い。そのうえに高地であり快適な気候だ。街の東方には南北に高黎貢山脈が奔り、山麓の東を怒江(ミャンマー領内に入るとサルウィン川となる)が流れる。この山脈でも日本軍は戦った。風光明媚このうえなく、そのうえ東南アジアに近い。ならば東南アジア金持ち向けのリゾートとしての適地。そこでリゾート開発業者のソロバンが弾かれる。

 たとえば「人居天堂 財富熱土(地上の天国、打ち出の小槌)」がキャッチ・コピーの高黎貢国際旅游城(GAOLIGONG INTERNATIONAL TOURIST CITY)は、60億元を投資し、2つのゴルフ場、各種別荘、豪華ホテル、SPA、世界の美食を集めたレストラン街など考えうるありとあらゆる遊興施設に加え、滇緬抗戦記念園まで備えているというから驚きだが、豪華パンフレットの最後は「各級政府の強力なバックアップがあります。将来、必ずや都市における新しい形の蓄財物語が書かれることでしょう」と結んであった。中央(北京)から地方(騰冲)までの政府が支持する開発計画であり、有望で効率的な投資物件であることを宣伝している。

 だが、上には上の、さらに上があった。「旅菲愛国華僑黄如論先生」は54ホールのゴルフ場を中心とした超弩級の国際リゾートの開発も手がけていたのだ。名づけて「騰冲・国際高爾夫旅游度暇村 TENGCHONG INTERNATIONAL GOLF TRAVEL RESORTS」。金源大酒店のロビーで手にした豪華パンフレットには、これでもかこれでもかといわんばかりにオメデタイ文字が並ぶ。

 「四季如春、宜游宜居的人間天堂(四季春の如く、遊んでよし住んでよしのこの世の天国)」「打造中国殿堂級旅游勝地(これ以上ない中国最高・至高のリゾートを目指す)」「雲南最大的国際化、多元化高爾夫球場(雲南最大の国際化、多様なゴルフ・コース)」「海抜1640米、全年日照充足(年がら年中、降り注ぐ陽光)」「万脈匯聚、生生不息(全活力が集い、永遠の生命)」「千年風水大成(風水至高至聖の地)」「儒、道、仏三家共尊之地。虎踞龍盤今勝昔、尽享物華天宝、人傑地霊、人丁興旺、官高文秀、富貴悠遠」・・・バカバカしいので、これ以上書き写すのを止めます。

 とはいうものの、「儒、道、仏三家共尊之地」には笑い出さずにはいられなかったが、いったい社会主義や共産主義はどこへ行ってしまったのか。ここまで漢字をゴテゴテと並べられると、パンフレットから芬々たる胡散臭さが感じられてしまう。パンフレットを閉じると、不思議なことに頭の中に「各級政府幹部・愛国華僑二家共尊之地。金脈匯聚、蓄財不息、官笑民苦、富貴悠遠」の文字が浮かんできた。

 早朝、ホテルの部屋から窓の外を眺める。朝陽に浮かびあがった別荘群は、まるで墓場のようだ。それもそうだろう。灯りがみえない。誰も住んでいない。豪華な造りにみえるが映画のセットのようで生活実感がない。そのうえ、どの建物の壁も騰冲一帯の特産で墓に使われている石材で作られている。まるでバブルの墓場・・・一瞬だが、そう見えた。《QED》