樋泉克夫教授コラム

【知道中国 794回】                     一ニ・八・念四

 ――頑迷固陋、猪突妄信・・・毛沢東の気持ちが痛いほどに判ります
                   
 シンガポールの華字紙「聨合早報」(8月23日)に、尖閣問題に対する中国の反応について興味深い評論が2本掲載されていた。そこで双方を要約してみると、
1本はコラムニストの于沢遠による「難得的理性声音(理性的な世論は得難い)」で、「数日前、中国のいくつかの都市で日本の右翼人士による釣魚島(日本では尖閣諸島と称する)上陸に対し抗議行動が起きたが、『華夏の全土が墳墓の地に化そうと、日本人を皆殺しだ』といった類の衝撃的なプラカードがみられた。「日本製品をボイコットせよ」という掛け声に煽られ、日本ブランドの車をひっくり返してぶち壊し、“愛国反日”の激情を晴らそうとした」と書き出されている。なお「夏華」は中国を自らが尊称した用語だ。

 ――ネットでは、反日有理、日本車の破壊は無罪だ。日本製品の消費者に対し徹底した教訓を与えよ。経済・貿易を武器に“小日本”に教訓だ。日本経済を完膚なきまでに叩きのめすことは人々の熱い支持をえられるなどの過激な意見が行き交っているが、狭隘な民族主義を放置することは、現在のみならず将来に亘っても中国にとっては有害無益だ。

 その意味からして、中国メディアが愛国そのものに間違いはない。だが、愛国を口実に国家と社会に危害を加えようとするのは最も恥ずべき行為と主張していることは正しい。両国間に問題は確かに多い。だから多くの中国人のなかには日本と聞いただけで頭に血が上ってしまい、反日有理、日本車破壊無罪を叫ぶ者がいる。だが、世論は愛国と車の破壊を明確に分け、愛国流民(ごろつき)を痛烈に批判すべきだ。
――かくして「混乱と騒音のなかで理性の声を聞くことは難しいが、それこそが称賛に値する」と結ばれている。

 残る1本は鳳凰衛視の解説者による「中国民間における保釣の新戦略」。鳳凰衛視は香港にある中国系資本経営TV局で、今回の香港の活動家による尖閣不法侵入を同行取材した。

 先ず「(釣魚島上陸に成功し我が主権を明らかに示したことは)中国と香港の両地において極めて大きな反響を引き起こした」とし、「北京による”不支持、不参加“といった情況下で、はたして民間保釣は持続可能なのか。中国における民間の運動は突破口を開けるのか。民間保釣運動を新しい段階に進められるのか。これらは深く考えるべき問題だ」と受けた後、民間運動には限界があり、やはり「官民結合」の運動こそが有効だと主張する。

 「官民結合とは、今後は政府が直接的に民間の保釣運動に参画することを指す。民間の活動家と積極的に意思疎通を図り、保釣運動の組織、担当部署、調整、安全などの全過程に加わるのだ。このようにして中国政府と民間の保釣運動家の間に緊密な連携、相互信頼、黙契が生まれる」。だから「政府は保釣運動家を闇雲に“迷惑製造者”と看做してはならない」。かくして①官民間の疑心暗鬼を解消し、②民間運動家の安全が担保され、③民間運動の永続性が確立する――「率直に言って日本が最も恐れるのは個別の運動家の上陸ではなく、中国の官民上下が心を一つにすることだ。だが中国の現状は、まだ、その域には遥かに及ばない」と嘆いている。

 双方の主張を比較すると、前者が理性的で後者が過激であるように思えるが、我が尖閣を釣魚島などと僭称し、飽くまでも中国領と言い張っている点からいって、やはり同工異曲ならぬ異工同曲というものだ。いったい彼らは明白な歴史的事実を、なぜ好んでネジ曲げ続けるのか。ならば日本はいまこそ毛沢東の“有難い教訓”を覚悟をもって活学活用すべきだろう。そう、「99回説得してダメなら、100回目にはぶん殴れ」である。《QED》