|
樋泉克夫教授コラム
|
|
|
【知道中国 805回】 一ニ・九・仲九
――台湾人の眼に映った「大陸人」の不思議さ
『大陸 不思議!』(宮鈴 商訊文化2012年) 安徽省生まれの父親から「一緒に大陸の故郷に里帰りするぞ」と誘われても、中学生当時の彼女は「共産党が統治している限り、私は行かない」とキッパリと断ったが、テレビ局に勤めるや、俄然「胸を張って決然と大陸取材班に参加した」という。
この本には2004年6月に北京での特派員生活をはじめて以来の中国における記者生活を通じて「大陸」で学び、感じた「不思議」が満載されている。
著者は台湾では次のステップに進むための反省会程度を意味する「検討」だが、大陸では政治的糾弾、あるいは自己批判要求集会を指すという違いを挙げ、中台両岸と一括りにされるが、もはや大陸と台湾は違ってしまったとする。かくして「私の大陸での長期的観察に基づけば、すでに両岸は価値観において次の6つの違い」を生んでいるとし、「大陸人」の特徴を挙げる。
①唯物主義=「大陸人は幼い頃から非常に多くの思想教育を受け、それらは全て政治と結びついている」。こういった思想教育の最大の特徴は「唯物主義」だ。かくて彼らはモノを買う基準は、いいか悪いか。好きか嫌いかではなく、ズバリ「値段が高いか安いか」となる⇒【物事の判断基準は金額の多寡だけ】
②大雑把な感受性=途方もなく大きな生活空間に生きていることから、鈍感で大雑把な振る舞いをみせる⇒【他人の心など忖度していては生きてはいけない】
③敵か味方か=「大陸人は敵と見方の境界線が極めて明確だ」⇒【味方でなければ敵】
④相対的・全体的で柔軟な思考ができない=共産党政権の情報の一元的統制で個々の情報を結んで全体情況を把握することができない⇒【肥大化する噂を妄信】
⑤無意味な民族感情=「周知のことだが、大陸人は民族感情に極めて敏感であり、アメリカと日本に対する復仇の念は殊に強烈だ。それは、「中国人は西側世界の圧迫を受けているという共産党政府の宣伝」に起因する⇒【愛国無罪は絶対の真理】
⑥1つの価値基準=「長期に亘る共産党の一党独裁という環境に置かれればこそ、1つの価値基準、1つの社会標準もまた奇怪なことではない。たとえば学校教育においては試験成績が良いのが好ましい学生であり、模範的学生は愛党愛国である。これが絶対不変の『硬指標』であり、この基準に抵触する一切は無効となる」⇒【夜郎自大】
以上に言動の隅々までを左右されている大陸人だが、彼らが最終的に忠誠を尽くべき対象は飽くまでも党であり、個人でも集団でも民族でも国家でもない。
確かに中国の発展速度は凄まじい。「ハード面の発展は急速に進んでいるが、そこに身を置いている人々の心はハード面の発展速度に到底追い付けるものではない。だから彼らの頭の中は農業時代」から抜けだせない。首都の北京でも道を尋ねると東西南北で応えるから、北京の住民以外には皆目判らない。日常会話には異常なまでに形容詞が多い。
かくて「現在、大陸における価値観の中心は空っぽになってしまった。経済第一を国是として空っぽを埋めようとしているから、大陸人はゼニ儲け第一でしか生きられなくなってしまった。物質的追求に日々を送るしかない彼らの精神面は虚しい」と結論づける。
著者の指摘に基づけば、最近の反日運動の異常さは共産党教育の“成果”ということになろうが、そもそも、それを受け入れ易い体質が中国人にあると思うのだが・・・。《QED》
|
|
|