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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 807回】 一ニ・九・念三
――もう十二分です。これ以上は要りません
『中国人太多了嗎?』(梁建章・李建新 社会科学文献出版社 2012年) 「後記」によれば、著者の1人である梁建章が、何年か前にスタンフォード大学で研究していた際、「偶然に中国の若者人口が急速に萎縮している情況を発見したところから、中国の人口問題と政策に興味を抱き」研究を続け、この研究書を執筆したとのことだ。
梁は69年の上海生まれ。米国留学。米企業のOracle中国支社を経て99年にIT企業を立ち上げた後、スタンフォード大学で博士号(人口経済学)を取得。11年から北京大学国家発展研究院客座研究員。共同執筆者の李は、日本の都立大を経てミシガン大学で人口学を研究。北京大学社会学人類学研究所教授で人口学法学博士――“赫々たる経歴”から、改革・開放体制の恩恵を十二分に受けた勝ち組といえそうだ。鼻持ちならない今時の中国の若手学者の典型・・・挫折知らずで、厭味タップリ。だから鼻息ばかりが荒い。
人口政策失敗例に日本を挙げながら、議論が展開される。このまま一人っ子政策を続ければ若者人口は激減し、科学技術は後退し、活力なき社会が出現し、中国の成長は頓挫し、日本のように停滞一途の道を転がることになる。だから日本のようになりたくなかったら、ともかくも産めよ増やせよ、である。中国の将来を考えると食糧、問題ない。環境、問題ない。新エネルギー開発、全く問題ない。著者は万事に問題ないと胸を張る。ともかくも多産奨励の一点張りで威勢がいいが、それだけに手前勝手で危うい主張が繰り返される。
たとえば「中国は民族関係と貧富の差に起因する社会の不公平問題さえ処理すれば、社会の安定は保てる。ならば今後の10年~20年の経済成長によって、中国人の平均年収は2万米ドル超となり、高等教育普及率は50%を越え、中国の政治体制の安定と改革のリスクは大幅に低減する」と言い張る。だが、「民族関係と貧富の差に起因する社会の不公平問題」をどうやって「処理」するのか。「政治体制の安定」はどう確保するのか。「改革のリスク」を如何に回避するのか。その点には口を噤んだまま。具体的方策は一向に示さない。
多彩な統計やアメリカの学者の最新理論を援用しながら華麗で高邁、そのうえ現実離れの著しい人口論が展開されていく。夢物語としては面白いが、最後の最後にバカバカしいとしかいいようのない強烈なアジテーションが待ち構えていた。
「産児制限政策を完全に撤廃せよ。なぜ躊躇しているのだ!」 「我が国の計画出産という公共政策を『人を本とする』本来の姿に立ち還らせ、人民に出産選択の権利を与えよ!」 「中国の人口の長期にわたる均衡ある発展を保障してこそ、人口と社会経済、資源と環境の調和のとれた持続的発展が保証できるのだ。こうしてこそ、21世紀が真の中国の世紀となりうる。世界の強国に伍し、長きに亘って成長し衰えることのない立場に立てる。いまや中国の人口政策を徹底して解放せよ。いまや多産を奨励する時に立ち至った」
そして、この本の最後は研究書らしくもなく声高らかに結ばれている。「中国人は多く生まれているわけではない。いや、むしろ少なすぎる。中国人は多く産むことができる! もっと、もっと、より多く生まれるべきだ!」
改めて冒頭の「引言」を読み返すと、「可及的速やかに現行産児政策を転換しないかぎり、中国は将来、子供の数が最も早い速度で減少する国家の1つになってしまう」と危機感を煽る。だが将来の地球環境を考えれば、これ以上増やされたら・・・堪りません。《QED》
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