樋泉克夫教授コラム

【知道中国 837回】               一ニ・十二・仲三

 ――ジニ係数で超危険レベル・・・だからどうしたってんだ

 『大国思維  破解深蔵于大国的思維奥妙』(王宇編著 湖南人民出版社2010年)

 12月10日、「中国のジニ係数0.61」と報じられた。ジニ係数とは社会の所得格差を示す指標であり、0に近いほど所得が均一化し、1に近づくほどに格差が激しいといわれる。日本は0.3台前半で、0.4が「社会紛争多発の警戒線」とのことだが、中国は2010年段階で0.61という世界最悪水準に達したことになる。この数字は西南財経大学と中央銀行である中国人民銀行金融研究所が実施した調査結果であり、信頼性は高いとみられている。

 世界銀行によれば、2010年のジニ係数の世界平均は0.44で、0.6超はアフリカや中南米のどうしようもなく不平等な最貧国に限られているというから驚きだ。つまりGDP規模で世界第2位の経済大国は、一方では世界でも稀な社会格差の激しい国だったのだ。

 だが、そんなことで驚き、たじろいているようでは大国にはなれない。そんな“些末なこと”は関係ない。積極果敢に世界の超大国への道を突き進め――こんな雄々しくも勇ましく猛々しい主張、いや“義憤”に近い感情が、この本には溢れかえっている。

 改革・開放から30数年。中国は猛烈な速度で発展した。それゆえに中国社会には以前とは全く異なった仕組や勢力が生まれている。勝ち組もいれば負け組みもいる。だが総じていえることは大部分の中国人が中国と自らの将来に大きな自信を持っているということだろう。一方、国際環境の面から捉えてみると、比較的安定した30数年だったといえるが、リーマンショック以来、地球規模で金融危機に見舞われながら、新しい秩序の創出に苦慮している。

 このような世界的な経済危機の渦中にあって、新しい秩序を希求する国際社会は世界の東方に熱い眼差しを向けている。中国モデル、中国の責任、中国の形象が問われているのだ。ならば未来の中国は世界に対し如何なる影響を与えるべきか――
以上のように問題提起をした後、アヘン戦争敗戦以来の“自虐史観”を脱却し、弱国感情を克服せよ(第一章)。
 中国はアメリカに世界経済、科学技術、国際関係の面での「3つの真の戦」を挑み、ありうべき国際的な地位を勝ち取れ(第二章)。
 いまや中国は従前の「保守的思想」を克服し、他から影響を受ける「反応外交」から確固たる信念に基づいた「主動外交」に転ずるべき機会である。かくしてこそ地域の大国を脱し世界の大国へと向かう道が拓け、「中国の心」が「世界の心」を牽引することになる(第三章)。
 改革・開放を機に中国は富強の道を歩みだし、自らの努力で「地獄を這い出し天国に辿り着いた」。もはや安価な労働力を外国ブランドに提供する時代は終わった。「愛国」こそが「国家の利益の要」だ。軽佻浮薄な文化を一掃し、21世紀初頭という絶好の機会を捉えるべきだ。いまや如何なる国家も中国の前進を阻むことなどできはなしない。他の追随を許さない先進産業技術、原潜・空母を軸とする圧倒的国防力という「大国に相応しい大目標を持て」(第四章)。

 かつての一時期の惨状を脱し、「いまや東方の大国は再び崛起し、世界の耳目を集めている」。であればこそ国際秩序の「ゲームの規則を定めてこそ、強大な国家となれる」(第五章)。西側による包囲を打ち破り、中国に対する認識を改めさせ、志を立て「多極世界における“英雄国家”を目指せ」(第六章)。
かくして広大な国土、溢れる資源、強大な軍備、繁栄する経済、膨大な人口、無尽蔵の資産もさりながら、「大国に相応しい頭脳こそが最も大きな力だ」と結論づける。

 いまや中国は大国病という業病に罹ってしまった。全身マヒ状態ですかねェ。《QED》