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樋泉克夫教授コラム
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【知道中国 858回】 一三・二・初七
――「遮天鉄鳥撲東京、富士山頭揚漢旗」だと・・・ダボラを吹くな
『鉄血遠征 滇緬会戦』(楊剛・馮傑 武漢大学出版社 2011年) 「1942年から45年の間、中日両国は滇緬公路をめぐって鬼神を慟哭せしめるような死闘を繰り広げた。偉大なる戦略的勝利を収めた死戦の全体像を描き出すことに努め、60有余年前の尊い日々を今日の我われに深く感得させ、あの熱帯・瘴癘の密林のなかで死力を尽くし、国家のために我が身を捧げ斃れていった人々を永遠に心に留める」べく出版したと、この本の「序」には記されている。
台湾の知兵堂出版社版の中国における版権を武漢大学出版社が獲得し、台湾版の繁体字を簡体字に直して出版された。ならば台湾版と同じ内容だろう。どうやら、この本もまた台湾の国民党に対する統一戦線工作の一環のようだ。「日本と戦った昔を思い出そう。昔も今も敵は日本だ。大陸と台湾に分かれようと、同じ中国人じゃないか」ということである。
インド東部に送られマトモな兵士に鍛え上げられた中国兵はスティルウェル指揮下に置かれ米軍部隊と共に、或いは米軍部隊に前後してミャンマー北部のフーコン谷地に進軍し、同地方一帯に展開していた日本軍を打ち破る。密林、豪雨、猛禽、疫病、道なき道――フーコンはミャンマー語で死を意味する。死の谷での死闘だ。彼らも死線を彷徨った。一方、米軍供与の最新式装備で固めていることから、日本軍によって米式重慶軍と呼ばれた近代化されたもう一つの中国軍は雲南西部に進攻していた日本軍を激戦の末に潰走させた。
460余頁の最初から最後まで、広大な戦場で展開された中国軍の“英雄的な戦い”が講談調で描かれている。勝鬨あげる中国軍に対し殲滅される日本軍。だから日本人としては読むほどに胸糞が悪くなるが、それでも時折漏れてくる彼らの“本音”には驚かされる。
たとえば「中国軍兵士の素質と訓練が劣っていることは認めざるをえない。戦闘における動きは未熟で、誰もが戦略、或いは戦術上の要求を満足させることは不可能だ。前進攻撃や敵拠点攻略などに際しての事前作戦においても、完璧を求められない。兵士には独立して作戦に当る精神が欠如しており、指揮官が斃れたら、直ちに戦闘能力を喪失してしまう。命令を徹底することができず、戦機を誤り、作戦全体に悪影響を与える指揮官もいる。将校も兵士も機密保持と防諜意識に欠け、情報工作に当っては迅速で的確な日本軍には及ばない」と語る一方で、「日本軍は将校も兵士も優れた素質を持ち、教育訓練は的確で、上官の命令に対しては絶対服従で完遂に努める。作戦遂行に先行して進められる工兵の作業、火力網の編成、陣地側面防備、偽装などには万全を図る。個々の兵士が独立して作戦を遂行する能力を持ち、部隊が全滅情況に陥ろうと安易に退却することはない。反撃、あるいは夜襲に優れ、作戦準備は用意周到で、秘密を企図する。情報は的確で索敵は厳格。部隊相互の連携は確実だ」と。
昔から「好人不当兵(いい人は兵にならない)」と信じられていた中国である。やはり兵士の資質が劣悪であることを、彼ら自身が認めざるをえなかったということだろう。
彼らは「遮天鉄鳥撲東京・・・富士山頭揚漢旗・・・要使環球人類共沐大漢風(空軍機は空を埋め尽くして東京を爆撃し・・・富士山の頂に中華の旗を立てる・・・人類を大中華の風で包むのだ)」などという軍歌を唱っていたとのことだが、昨今、尖閣諸島近辺を跳梁跋扈している解放軍の面々も、先人が唱った“勇猛果敢な軍歌”を口ずさみながら我が自衛隊艦船にレーダー照射しているのだろうか。暴虎馮河・・・やはり匹夫の勇だ。《QED》
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